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恋に落ちた姫
姫様は暇を見つけては彼のいる場所に行きたがった。訓練場、厩舎、交代で見張りにつく、東の丘の砦。
夏のある日、彼を追いかけて見失い、街中の路地で悪漢に絡まれたことがあった。姫様をかばい、大声を上げると騎士たちが集まってきた。
あっという間に悪漢は蹴散らされた。
「大丈夫ですか」
怯えて腰を抜かした姫に、手を伸ばしたのが彼だった。「はい」と姫様は手を預ける。彼以外見えていない、乙女の表情だった。
姫様が父王にねだって、彼を護衛に任命するのにそう時間はかからなかった。
「アンドリュー、こっちへ」
「お待ちください、姫様」
秋の庭園、木の葉舞う中を姫様は駆け出し、彼が追いかける。
平和な光景、お伽話の中にいるような現実感のなさ。見守る私の目は冷めきっていた。
どれだけ姫様が恋焦がれようと、彼はその想いに応えられない。城の中は縁故ある者の結びつきが強く、後ろ盾がないものは弱い。莫大な財産も身分もない彼と、どうこうなろうなんて無理なのだ。
それなりの教育を受けているのに、思いが至らない姫様に苛立っていた。
そして冬、王が亡くなった。
流行病が原因だった。
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