激しい雨の夜に

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激しい雨の夜に

 彼が戻ってきたのは、数日後、激しい雨の降る夜だった。訓練所が騒がしく、様子を見に行くと、ぐったりした彼が運びこまれてきた。しっかりしろと騎士団長が呼びかける。  端正な顔は真っ青で生気(せいき)がない。 「何があったの」 「わからん、北の森の前に倒れていたらしい」  姫様にどう報告しようかと思った時。 「エミリ、ここにいたの」  背後から声がした。  フードを被った姫様がいた。   「姫様は……ご無事ですか?」  ほぼ同時に、アンドリューの目が開く。  その場にいた者たちの動きが止まる。誰もが、彼に駆け寄り、しがみつく姫様を予想した。    ところが。  降ってきたのは、異様に落ち着いた台詞だった。 「怪我人? 丁重に看病してあげなさい。  エミリ、私の部屋に来てちょうだい。婚礼のドレスの件で話があるの」 「あ、はい」  騎士団長を見ると「任せろ」とばかりに(うなず)いた。が、彼も顔が(こわ)ばっている。  激しい雨音の中、通路を通る姫様の後を追う。雷光に照らされた背中が、別人のようだった。
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