女教師のように

　もうすぐ十月になるというのに、夏の名残がいつまでも未練がましい。

　そんなある日、彼の運転するメルセデスで郊外のフレンチ・レストランへ行き、ランチコースメニューを愉しんでいた時のことだ。

「きみの声…」
「なあに」
「きみの声は素敵だね」
「そう。ありがとう」
「若さゆえの張り、と同時に成熟した甘さがそこにある」
「ふうん。よくわからないけれど」

　三十路が若いと、はたして言えるのかどうか。清潔感のあるショートヘア、そのところどころに白いものが混じる彼にとってはそうなのだろう。

「そんな素敵な声のきみに、頼みがあるのだが」
「なに？」

　そして彼はこう言ったのだ。

　女教師のように後ろで髪をまとめ、黒ぶちのメガネをかける。 シンプルな白のブラウスに同じくシンプルな黒のタイトスカートを身につける。靴は黒のハイヒール。できればエナメル素材がいい。