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「由比様。本庁の奴らからすると、姫が眠りから覚めることのほうが、蒼鬼よりも厄介だと考えているということですか?」
缶コーヒーを飲む由比に、榎本はどうしてなのかと訊ねる。榎本の感覚からすると、殺戮を繰り返す蒼鬼ほど厄介なものはないと感じるのだ。
「そのとおりだよ。姫は厄介なんだ」
「何故ですか? 蒼鬼はまさに災厄。一方、姫は清らかなる存在なのでしょう。どうして厄介なのですか?」
納得できずにさらに訊ねると、由比は面倒臭そうながらも榎本を見た。
「単純に考えると、確かに姫にはなんの問題もないように思える。しかし、人間は清すぎる空間では生きていけないんだよ。川や海と同じだ。雑多なものが入り混じっているからこそ、人間は自分の醜い感情とも折り合いをつけ、呪うことはない。だが、周囲が清らかになると、その醜さが浮き彫りになる」
「なるほど。だからこそ、我らの計画には、姫が必要だというわけですね」
「ああ。呪いを蔓延させるためにね。皮肉なものだろ? 姫が清らかであればあるほど、人間はどんどん醜くなるのさ」
くくっと笑い、それから、蒼鬼は我らと同じなのだよと付け足した。
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