3人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
天窓から降り注ぐ朝陽は眩しかった。
目を覚ませば、身体にこびりついていた砂埃と血痕は拭い取られ、怪我をした箇所には清潔な包帯が巻かれていた。
鎮痛剤が使われているのか、酷い痛みは感じない。どうやら、意識を手放した後で適切な処置が行われた様だった。
簡素な作りのワンピースに身を包んだ身体をベッドから起こす。動きの悪い足を引きずりながら、木製のドアを開けた。
すると、その向こうはキッチンだった。
「あれ?起きたの?」
見慣れた青いティーシャツに白いエプロンを身につけた青年が、フライパン片手に振り返る。
軽く頷くと、彼は俺を小さなダイニングテーブルへと座る様に促しながら、ニコニコと言った。
「朝ごはんは食べられそう? 簡単に作ってみたんだ」
テーブルには次々に皿が置かれてゆく。
クルクルと綺麗に巻かれただし巻き卵。香ばしく焼かれた鮭。白胡麻がのったほうれん草のおひたし。出汁の香りが立つ具沢山の味噌汁……。
そして最後に、温かい湯気が立つご飯をよそった茶椀が目の前に置かれた。ツヤツヤと輝く白を見るだけで、どうしようもなく腹が鳴った。
「あはっ!それだけお腹が鳴れば食べられそうだね。どうぞ、召し上がれ」
「……いただきます」
笑われたことを不服に思いつつ、箸を伸ばす。
味噌汁を一口啜れば、優しい出汁の風味が口一杯に広がった。
「美味しい……!」
思わず零れた呟きに口を押さえる。
そっと顔をあげれば、御子柴は向かい側の席に腰掛けた。テーブルへ肘をつき、こちらを覗いている顔は、嬉しそうな笑顔だった。
満たされていくお腹と共に、全身がポカポカとあたたかくなっていくのは、何故だろう。
食事なんて栄養を補給するためだけの行為でしかなかったのに、今は箸を持つ手が止められない。
正直、視線はうっとおしいが……、
何故か、居心地は悪くなかった。
最初のコメントを投稿しよう!