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Episode0. 猫と鴉
抜けるような空の青に、火葬場の煙突から揺らめく白い煙が吸い込まれてゆく。
その光景をひたすら目で追いながら、天へ向かって手を伸ばした。
傷だらけの汚い手。
血に塗れた外道の手。
こんな手を握り返してくれた、あの手の温もりが忘れられない。
『……。…ぇ……さん。幸せになって』
天高く昇る煙には、当然のようにこの手が届くことはない。涙なんて、とうに枯れ果てた。
突き上げた拳を握りしめて、俺は呟く。
「……もう、やめるんだ」
春風が、短い髪を揺らす。
それは、亡き弟へ向けた決意だった。
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