Episode0. 猫と鴉

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 常闇を駆け抜ける。  遠慮なく撃ち込まれる銃弾身を翻しながら躱し、男の背後へと回り込む。 「……っ、クソ……がぁ!!!」  抵抗される前に、素早く目の前の首に腕を回し、締め上げ骨を折る。  だらしない死体となった男をそのまま盾がわりに、尚も撃ち込まれる銃弾を回避した。  鳴り止まない銃声の向こうで、男達の汚い声が響き渡った。 「おいっ! 増援はまだかっ!! このままじゃやられるぞ!!!」 「嘘だろ……、相手はたった一人だぞ!?」  間抜けな悲鳴に、欠伸が出そうだ。 「じゃあこいつ……、本当に伝説の……」  言い終わらないうちに、五月蝿い喉元をナイフで掻っ切った。 「……ゴホッ。な、んで……アンタ程の人が、こんなことを……」  恐怖と鮮血に染まる瞳を、腕の中でそっと見下ろす。 「知りたいか?」  俺は手を離し、血反吐を吐く顔を革靴で踏み潰しながら答えてやった。 「今日で、退職するんだよ」  尚も縋り付く男の頭を、銃で撃ち抜く。  せめて、楽に死ねるように……と。  物陰に隠れた男達は、その姿を表さないまま声をあげた。 「考え直せ! 俺達を全員殺したとしても絶対にボスからは逃げられないぞ!」  震える言葉に、ため息を一つ吐きながら言った。 「全員殺すつもりはない。俺を殺しに来たから殺しただけ。見逃してくれれば何もしない」  それは、本当だった。  本来なら、今日の任務を終えた後で、静かに行方を眩ますつもりだったのだ。  だというのに、こんな廃病院で彼らと殺り合ってる現状は、どう考えても異常事態だ。なぜなら。 「見逃すことはできない」  物陰から一斉に姿を現したのは、俺と同じスーツを見に纏う元同僚達だから。 「それが、ボスからの指示だ。コードネーム"鴉"、お前をここで処分する」  俺は、弾切れの銃を投げ捨ててナイフを構えた。
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