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ヒラヒラと何かが落ちてきた。
それは、オリーブ色のハンカチだった。
「ごめんね~それ拾ってくれる~ごめんね~」
どこからか女性の声がした。あ!あそこだ。
戸建ての2階から年配の女性が手を振っている。
私はそのオリーブ色のハンカチを拾おうとした時、ちょうどバイクが来てハンカチをおもいっきり踏んで行ってしまった。
「あ」
昨日、雨が降ったから泥だらけになってしまった。私は泥だらけのハンカチを拾った。
良くみたらハンカチの端に月のマークがある。
私が拾ったのが見えたからか、
「ありがとね。今、行くから」と。
私がこの場所に来たのは初めてだ。
私は片平るな、18歳の高校3年。…と言ってもあと2週間で卒業する。皆、進学か就職か決まっている時期だ。
(でも、私は…)
そんな事をモヤモヤ考えていると、目の前にしっぽが長い虎猫が現れその猫を追ってここに来た。なぜなら、私に似てたから。
私は半前に事故に遭い、右足に怪我をしてそれから足を少し引きずるようになった。
もう少しリハビリを頑張ればもっと良くなるらしいけど…。
私は挫折や失敗を知らなかった。事故に遭った自分が許せなかったし足を引きずる自分が許せなかった。なら、リハビリをって思うものだけど、その気がおきなかった。
リハビリも進学も就職もバイトも辞めた。友達と遊ぶ事さえも。気を遣われるのが嫌いだから。"もうどうでもいいや!〝最近の私はそんな事ばかり考えて生きている。
さて、オリーブ色のハンカチを拾った私の元にさっきのおばさんが来た。
「ありがとね。やっぱり汚れちゃったのね。しょうがないか。
あ、お時間ある?
お菓子あるから、食べていって。
たいしたものじゃないけど。お礼させて。
さ、さ。あがって」
「え、いや。私は…」帰ります、と言おうとしたら虎猫がおばさんの家に入って行った。
「え?ここんちの猫?」
私は猫につられて入ってしまった。
おばさんは猫を見ては、
「あら、お月さんもきたの?お腹すいたの?今、出すからね。2人ともあがって。
さ、さ」
いいのかな~?私はそーと家の中へ。
「お、お邪魔します」
「どうぞ~今、飲み物だすからね。ジュースでいい?」
「あ、はい!」
「そっちの茶の間に座って待っててね」
「にゃ~」
「お月さんのも用意するから。おいで」
猫のお月さんは言葉が分かるのかおばさんについて台所に行った。
私は茶の間に行きおばさんを待った。どこに座れば良いものか分からず、ドアのギリギリの所に陣取った。
「お待たせ。はい、ジュースとお菓子。食べていってね。ほら、もっとこっちに来て、食べて。あ、ハンカチで手が汚れてない?大丈夫?」
「はい。大丈夫です。いただきます」
出して貰ったのは、オレンジジュースとマカロン。私はピンク色のマカロンをひとつとり食べた。
「美味しい…」
「そう?昨日、若い子に混ざって初めて買ってみたんだけどね。じゃ、私も」
おばさんはハンカチと同じようなオリーブ色のマカロンをとり食べた。
おばさんは「ホントに美味しい」と笑った。
私はオレンジジュースを一口飲んだあと、
「あの!私、片平るなといいます。ハンカチ拾っただけなのに、お菓子いただいてありがとうございます」と、自己紹介とお礼を言った。
「私は高宮文月(たかみやふづき)です。
とんでもない!助かりました。ありがとうね。」と、おばさんも自己紹介とお礼。
「いえ。すみません。すぐ拾えばあんなに汚れなかったのに」
「いいのよ。洗えば大丈夫だから」
「でも、破れてたみたいですが?」
「さっき破れた訳じゃないからいいのよ。
あれはね、亡き夫が最後にプレゼントしてくれた物でね。私が気に入ってどうしても欲しくておねだりしたのよ。だから、捨てるに捨てられずでね~」
「あ、すみません」
「いいのよ。あれは、家用だから。好きで同じの探しているんだけど…もうないのかしらね。まっいいわ。私にはお月さんがいるもの」
ご飯を食べ終えたお月さんが文月さんの横で丸くなっている。
「お月さんは胸に月の模様があるからですか?」
「そうよ。分かる?安易でしょ?ふふ」
「いえ、可愛いです。こちらの猫なんですか?」
「そうよ。時々、家の周りだけ散歩するの。
ほら、左前脚の方、引きずってるでしょ?生まれた時からみたいでね」
「生まれた時から…」
「私はお月さんが1歳くらいから一緒だから、その前の事は保護してた獣医さんから聞いたんだけどね。初めはもっと歩けなかったらしくてね。でもすっごく頑張ってリハビリしたんだって。子猫がね~。そんな事聞いたらこの子と一緒に居たくなって。応援したくなってね。元々、里親を探す予定だったみたいだから私が引き取ったの。今は4歳になったけど今も頑張っているのよって、あら?どうしたの?」
私はポロポロと泣いていた。なぜだろ?
自分に似てるから?いや。お月さんと私は全然似てなんかなかった。お月さんは頑張る事を諦めなかった。今も。でも私は…頑張れば何とかなるかも知れないのに、何もしなかった。
そんな自分を本当は嫌いでしかたなかった。
「私、お月さんと似てるって思って…でも全然違う。私は何も頑張ってない…自分が嫌い。
だから…だから…」
そう言うと私は右足をさすった。
その様子を見た文月さんは察してくれたようだった。
「るなさんに何かあったかは私は分からないけれど、私は頑張る事に期限なんてないと思うの。いつからでもいいと思う。遅いなんてないわよ。ね、せっかく知り合えたんだから私に出来る事は応援させて? 大丈夫よ!!
だって、私達には"ツキ"があるんだから!
ね、お月さん?」
「にゃ~!」
私の顔が心が久しぶりに緩んだ。
それからしばらくして、私は高校を卒業した。
私は日々リハビリをして前よりもスムーズに歩けるようになった。事故前みたくは難しいみたいだけど、出来るとこまでやろう。
結局今年は就職も進学も出来ていないが目標は出来た。
来年、リハビリ系の専門学校を受験しようと決めた。リハビリ以外にも色々学びたいから、文月さんの知り合いから紹介してもらって介護施設でボランティアをしている。
文月さんとは友達として今でも会ったり連絡したりする。
高校の友達とも時々連絡を取るようになった。
皆、心配してくれていたみたいでサポートするからと応援してくれた。
今度、文月さんと文月さんの家でランチをする約束をしている。文月さんの誕生日会の為に。勿論、お月さんも一緒に。
昨日、やっと見つけた誕生日プレゼントを忘れずに持っていかなきゃ。
今度は友達からの最初のプレゼントとして貰ってくれるかな。
オリーブ色のハンカチを。
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