血の滴る天井

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 それでも、我慢せざるを得ないのだろう。こんな都市部の、交通の便の良い場所にあって、少ない家賃である程度の広さの部屋に住んでいられるのだから。現実的な不便であればある程度は耐えて、困りごとは管理会社に訴えればいいのだ。それが、現実的な不便であれば。  現実的な不便で終わっていれば、この話は始まらなかったのだ。  香折はずっと気になっていた。この部屋の白く塗られた天井の一角に、黒い(ひび)のようなものが走っていることを。黒い(ひび)について入居時に管理会社に聞いてはいたが、建物の老朽化ではないとの話で、写真を撮るだけに止まっていた。  香折はその日、見てしまったのだ。  その黒い(ひび)から、真っ赤な液体が滴り、床へとポタポタと落ちているのを。
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