15-10

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15-10

 20時30分。  マンションに帰ってきた後、お互いに汗をかいているから風呂に入ろうという話になった。先に俺が風呂に入ってきた後、寝室で黒崎のことを待った。今、黒崎が風呂に入っている。いつもと変わらないと思うのに、どうも落ち着かない。多分今夜、黒崎とキス以上のことが起きると思っている。 (黒崎さんにもっと触れたい。近づきたい。怖いな。俺……、何をしたらいいんだろう?)  ふと、背後に気配を感じた。黒崎がそばに立っていた。緊張しすぎて気づかなかった。黒崎の方は心に余裕があるのか、落ち着かない俺のことを見て苦笑していた。俺の方は言い返す余裕がなくて、床を見つめたままだ。黒崎は上半身裸だ。そして、俺も黒崎から脱がされるようにしてTシャツを脱いだ。 「夏樹。どうした?」 「あの……」 「おいで」 「お、俺、どうしていたらいい?」 「何もしなくていい。目を閉じていろ」  抱き上げられてベッドに寝かされた後、黒崎が覆いかぶって来た。灯りを消してあるから、彼の顔がよく見えない。怖がっていると、彼の肩へ両手を回すように促された。 「怖くなったら力を入れろ。叩いても構わない。すぐにやめる」 「うん……。黒崎さん……、んん……」  何度も優しいキスを受け取り、怖くないと自分自身に言い聞かせた。目を閉じていても、優しい表情をしているのは分かっている。少し掠れた声で、愛していると囁かれた。俺の方は声を出せなくて、ただ頷いて返事をした。  こんなに人の肌が気持ちいいなんて知らなかった。黒崎の息遣いを首筋に感じていると、足を撫でている手が戻って来た。わき腹や胸まで撫で上げられて息が上がった。  落ち着くのに、そうではないという矛盾に戸惑いながら、大好きだという気持ちが高揚し、黒崎の肩に両手を回して抱きついた。初めてこんなに密着した。服越しに感じていた体温と匂いが、自分だけのものになった。俺の方も黒崎のものになった。これからどんなことがあるのか分からず、戸惑った。すると、黒崎が笑った。俺が緊張しているからだろう。 「夏樹。怖いならやめるぞ。少しずつで構わない」 「勢いがなくなるから進んでいいよ。進みたいんだ」 「本当にいいのか?どんなことをしてもらいたいか言ってくれ」 「なななに?何を言っているんだよ?変なことを言うなよ。緊張しているのに……」 「すまなかった。触られるのは平気か?」 「うん……」  俺は人から触られるのが苦手な方だと思うけれど、最近はそうでもなくなった。黒崎と過ごしているうちに何も思わなくなっている。黒崎から触られるのが嫌だと感じたことが無い。あの怪我をした夜も、初日の車の中でも違和感がなかった。そう黒崎に話すと、苦笑しながら頬にキスをされた。 「なんで笑うんだよ?」 「お前が緊張しているからだ」 「だって。裸同士でベッドにいるんだよ?」 「そう簡単に触らせてもらえないと思っていた。お前には散々振り回されて惚れ込んだ」 「そうなんだ……。振り回して良かったの?」 「ああ。楽しいと思ったときがあった。何か嫌みを言ってくれ。素直すぎて、こっちが緊張する。普段通りのお前が見たい」 「急に思いつかないよ。あんたが何か言えよ」  お互いの声が掠れて来た。体の感覚が変わり、急に体温が上がった。黒崎の体も熱くなり、ため息が絡み合った。気持ちが良い。そう思った後、すーっと、不安や緊張感が消えていく感覚が起きた。優しい眼差しを向けてくれている黒崎がそばにいれば、それでいい。だから、何も怖くなかった。
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