16-1 過去との対峙

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16-1 過去との対峙

 7月7日、水曜日。午前10時。  翌朝を迎えた。目が覚めると、上半身裸の黒崎が隣で寝ていて驚いた。昨日の夜、黒崎と初めて肌を重ねて一緒に寝たけれど、あれは夢かもしれないと思っていたからだ。でも、現実だった。俺が寝返りを打っても、黒崎は目を覚まさない。時計は午前10時だ。今日は試験休み中だし、黒崎は仕事の休みを取っていると言っていた。まだ起こさなくてもかまわないと思った。 (黒崎さん。大好きだよ。あ、ラインを見ておかないといけない……)  昨日は喧嘩をして仲直りをして忙しかったから、黒崎の家に泊まることを家に知らせた後、全く見ていなかった。家や森本達から連絡が入っているかもしれない。すぐにスマホを見ると、達也からラインが入っていた。何度もメッセージが入っていた。俺からの返事を待つことなく、六回も入っていた。内容は、俺への恋愛感情と、付き合って欲しいということだった。今まで何度も断ってきた。そろそろ会って話した方がいいと思った。そして、昨日入ったラインを読み、頭が痛くなった。 (……昨日の夜届いたやつ、エスカレートしているなあ。『俺と付き合って欲しい。こんなに良くしているのに、どうして付き合ってくれないのかな。良くしてくれる人には、感謝を返すべきだろう?……ずっと面倒を見てあげる。……返事をもらえないのは腹が立つ!……何をするか分からないよ。困らせてやってもいいよ?……さっきはごめん!返事が無いから、イラついて言い過ぎた。本当にごめんね。……ずっと君のことを見ているよ』か。あ、黒崎さんが起きた……)  メッセージを読んでいると、黒崎が目を覚まして起き上がった。起こしてごめんねと言うと、笑っていた。俺より少し前に起きていたそうだ。 「夏樹。おはよう」 「おはよう。家から連絡が入っているかもって思って、スマホを見ていたんだ。達也君から入っていたよ」 「昨日話してくれた件か」 「うん」  自分一人で解決しようと思ったけれど、達也からのラインがエスカレートしているから、黒崎には昨夜、達也のことを話した。会って話そうと思っていることも。万理の後ろをつけてきたのは達也かもしれないから、兄として話をしたい。黒崎からは一緒に話をすると言われたけれど、何でも頼ってしまうのは恥ずかしいから、俺一人で会うことを決めた。もう一度、付き合えないと言うために。 「夏樹。俺も付き添う」 「いいよ。俺一人で。黒崎さんと付き合うことになったのは言わないつもりだよ。巻き込むといけないからさ」 「巻き込んでくれてかまわない」 「困ったら助けて貰うからさ。今回は一人で会うよ」 「そうか。遠慮するな」 「ありがとう。今日は休みだよね?」 「ああ、そうだ」  達也に会うことは気が重い。でも、黒崎からの優しい眼差しを受けて安心した。そして、黒崎の裸の上半身を見て急に照れくさい気持ちが湧き上がり、誤魔化したくて目を閉じた。同じ朝を迎えて、愛しい人の気配を間近で感じられる位置が手に入った。ずっと欲しかった場所だと思う。俺は幸運だと思った。俺の気持ちが伝わったのか、黒崎から抱き寄せられて、頬にキスをされた。 「明後日まで試験休みだろう。休みの間、泊まらないか?」 「そうさせて貰いたいけど、うちのお母さんが遠慮するよ。また泊まりに来るよ」 「一緒に住みたい」 「まだ早いよ。ねえ、黒崎さんの中の俺の順位って、何位くらい?」 「もちろん一位だ。特別貴賓席でもある。仕事以外では最優先にしている」 「ありがとう」  その答えに嬉しくなり、両腕を回して抱きついた。頭を撫でられながら見上げると、少し気だるそうにしていた。まだ寝起きといった雰囲気だ。こんな姿を見られて嬉しい。今まで泊まったときも同じような光景があったはずなのに、今日は雰囲気が違うと思った。
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