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終末を歓迎した人類より
最後の目的地を目指して、徒歩で旅してきた。以前なら車や列車や飛行機などがあったが、もう歩いて移動するしかない。
それでも長かった旅はもうすぐ終わる。ゴールたる、崩れゆくビル群が見えてきたからだ。
世界が終わるまであと僅か。
到着までの一時を、この愚かな事態に陥った歴史の流れの回想に費やそう。
見上げる天の彼方では、滅亡をもたらす巨大隕石もゴールとなる地球を目指してひたすら直進し続けている。
本当なら対抗する手段はあった。現代の科学力をもってすれば、確実にあの程度の隕石落下など防げた。ミサイルやら何やらで破壊することも、軌道を反らすこともできたのだ。
いや、〝対抗する手段はあったはずだ〟、というのが正しかろう。
あの隕石をレーダーが捉え、地球への衝突が避けられないと分析できた直後。人類は、その対抗手段を失ったのだ。
いや、自ら捨てたというのが正しかろう。
原因は、過激な環境保護団体。いわゆる、エコテロリストたちだった。
連中は、「人類の科学による環境汚染が地球にもたらす悪影響を見過ごせない」として、強制的にその思想を実行した。
団体の人員や予算や技術を総動員して、その憎んでいた科学でウイルスサイズの超微小機械を開発したのである。
このナノマシンは、いわば科学技術を喰らう人工病原菌だ。科学文明を分解してエネルギーにし自己複製増殖を繰り返し、役目を終えるややがて崩壊する。
その後には、ナノマシン自身を含めて文明が存在した形跡すら残さない。
確かに環境破壊は問題だったが、エコテロリストの目的ですら人類文明を原始時代レベルへ後退させることだった。人類絶滅まで望んでいたわけではない。
しかし奴らがもたらしたナノマシンによって、本来対処できたはずの科学技術が分解され隕石の落下による人類絶滅を防ぐ手立てが失われたのだから皮肉だ。
人類だけではない。隕石の落下は長い期間を掛けて地球環境を激変させ、現在生きる多くの生物を絶滅させることが、ナノマシンに分解される寸前のスーパーコンピュータによる分析で判明していた。
エコテロリストが憎んだ科学よりも早く、現在の地球環境を破壊することになるだろう。
とはいえ、もはや怒った人々による襲撃やこの結果に絶望した自分たちによってエコテロリスト団体は壊滅している。
それどころか、あちこちで自暴自棄になった暴徒が荒れているが、その武器からさえナノマシンによって銃火器は失われ、最近は投石と棒きれになっている。
そんな中で、せめてわたしは人類絶滅の瞬間を特等席で観賞しようと旅してきたのだ。
目指すは失われる前のコンピュータが隕石落下地点と分析した地点。
今現在、ここには天をつく超高層ビル群がまだ僅かに残っているが、それも見ているそばからナノマシンに食いつくされて倒壊。失われつつある。
空にはもはや隕石がはっきりと目視できる。
角の上に積もった砂埃を払い、肉迫する破滅に向けて手と一緒に尻尾を振ってやった。
我々は、現在もっとも繁栄している人類の子孫たる動物。恐竜たちと共に滅びることになるだろう。
次に繁栄する種がいたとしたら、彼らは我々人類と同じ過ちを繰り返すだろうか。
「……我々、恐竜人類と同じ過ちを」
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