CDショップ「未来館」と悲しき歌声

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 青年がオズオズと口を開きます。 「あの、ここは少し変わったCDショップだと伺ったのですが」  まるで変声期前の少年のような高い声に驚きつつ、私は答えます。 「変わっているといえば、そうかもしれません」 「と言うと?」 「当店では、今から約30年後の世界で大ヒット中の、未来の曲のCDをレンタルしております」 「未来の曲、ですか?」  青年は驚いたように目をパチパチと瞬きました。 「ええ。独自のルートで未来の卸業者から仕入れております。他にないコンセプトで流行るかと思ったのですが、結果はご覧の通りで」  閑古鳥の鳴く店内を示し、自嘲気味に笑ってみせました。青年はそれには応えず、何か考え込むようにしばらく俯いた後、「未来で一番売れているCDはどれですか?」と言いました。 「こちらです」  店舗入り口前の特設コーナーへと案内し、彼に一枚のCDを差し出します。それは30年後の音楽界で最も売れているバンドのベストアルバム。  どれぐらい売れているかというと、CDが現代以上に売れないご時世に、なんとミリオン達成という怪物的偉業を成し遂げたのです。  またこのバンドは「稀代の天才」と呼ばれるシンガーがボーカルを務めることでも有名で、かく言う私も彼の大ファンであり、日夜その歌声に癒されています。
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