CDショップ「未来館」と悲しき歌声

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「良ければご試聴されますか?」  勢い良く頷いた青年にヘッドフォンを渡し、試聴機の再生ボタンを押します。  彼は目を閉じてしばらく聴き入っていましたが、突然鼻息荒く「すごい!」と叫びました。 「メロディーも歌詞も、全て俺好みの完璧な曲です! これは売れるのも納得だ!」  身体を上下に揺らし、つま先でリズムをとるその姿はとても楽しそうです。 「素敵でしょう? 彼らの音楽は『E-POP』と呼ばれているんですよ」 「E-POP? J-POPじゃなくて?」 「E-POPで合っていますよ。『Escapism Pop』の略語です。escapism、すなわち『現実逃避』という意味ですね」 「現実逃避?」 「E-POPは『度を越して明るい曲調』と、その名の通り『現実逃避とも言えるほど楽観的な詞』を特徴とする新しい音楽ジャンルです。暗いニュースや社会情勢、過酷な生活に疲れ果てた30年後の日本人の間で大流行していて、その火付け役がこのバンド『ヘブンリー・ワールド』なのです」 「大流行……」  私の話を理解しているのかいないのか、青年はただ一言そう呟いた後、山積みにされたCDの一枚を引っ掴みました。 「これください!」  私はニヤける口角を抑えつつ、紳士的に応えます。 「かしこまりました」
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