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ある日。私が相変わらず暇を持て余しておりますと、いつぞやの青年がやって参りました。
相変わらずオシャレさとみすぼらしさを両立した不思議な格好でオドオドと店内を闊歩する彼を、私はただ黙って眺めます。
青年は入り口前の特設コーナーで立ち止まり、平積みに置かれたCDの一枚に手をかけました。そのタイミングで私も彼に声をかけます。
「すみません、お客様。以前レンタルして頂いたCDの返却期限が過ぎておりますが、お持ち頂けましたか」
「えっ。いや、その、家に忘れてきてしまいまして」
青年の視線が斜め上に泳ぎました。期待通りの反応。私は続けて尋ねます。
「つかぬことをお聞きしますが、本当に忘れたのですか?」
「えっ」
「本当はCDが失くなってしまったのでは?」
「なっ! まっ、まさかそんなわけ……」
青年はわかりやすく狼狽えました。口では否定しても、その態度が真実を如実に物語っています。
私は憐れみと愉悦の入り混じった視線を向けつつ、怯える彼を責め立てます。
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