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いただきます、と手を合わせる。
久しぶりだ、こんなご馳走ーーー。
『ケンヤ。夕飯の時間だ』
ドアのノックで目が覚めた。
『ん………』
ルキが自室に篭ってしまってからはやることが無くて、与えられた部屋に来てみた。
1人部屋にしてはかなり広い。
2人で使っても、まだ十分な広さがある。
『でけー……』
ダブルベッドに、机に椅子。
ソファとテレビまである。
それから、漫画や小説がずらりと並んだ本棚。
クローゼットはウォークイン。
その中には新品の洋服が五着。
シングルスーツに、ダブルスーツ。
ジャケット。
そして、Tシャツとジーパン。
サイズはL。
ケンヤのサイズと同様だ。
偶々かもしれないが、新品で揃えてあるあたりちょっと怖い。
『あのー……』
お飲み物をどうぞ、とやってきたメイドに話しかける。
『はい、いかがなさいましたか?紅茶は苦手でしたでしょうか?』
『あ、いや。紅茶は好きですけど……あの…クローゼットに入ってる服は……?』
『お召し物でございますね。ルキ様がご用意しておくように言われまして』
『あ……そうなんですか』
『はい。ケンヤ様のサイズはLだろうと。しかし、実際にお召しにならないと分かりかねますわね。不都合ございましたら、お取り替えしますので、お伝えくださいませ』
口調は淡々とした若いメイドは、にこりと笑う。
『勿論、その他のことでも何なりとお申し付けくださいませ』
『あ、はい』
『では、失礼致します。お夕食の準備が整いましたら、お呼びいたします』
ペコリと一礼し、メイドは部屋を出ていった。
『これを………ルキが?』
何者なんだ、アイツ……?
金持ちで、だけど驕ってなくて、優しくて。
ひとりで、メイドと暮らしてる……
『アイツも、色々あるんだろうな』
だけど、それを全く出さない。
『…………本でも読むか』
彼は幼い頃、本がだいすきだった。
身体を動かすのが苦手なのもあるが、別の自分になれるようで、没頭して読んだ。
だけど、家族が離散してからずっと、生きるのに必死で読むことができずにいた。
それが、今は………
『なんか、すげぇ……』
本を読むこと。
食事すること。
人と話すこと。
当たり前に行っていたことが、できる。
なんだか、嬉しい。
手に取った本は、少年が家族と一緒に買い物に行って、出会った男に力を授けられ人助けをする物語だった。
両親と買い物か。
いいな、と思う。
きょうだいがいれば、親がいなくなった悲しみをわけ合えたのかもしれない。
だけど、今更だ。
久しぶりにひとと接して、緊張が緩んだのか。
ちょっとだけ、気弱になるのは。
『はぁ』
溜息が出る。
だけど、不思議と嫌な感じはなかった。
そして、今までの疲れがドッと出たのかもしれない。
『ケンヤ。夕飯だ。………?』
ノックの音に反応はない。
『入るぞ』
ベッドの上、いたいた。
『早く来い』
『んんー』
寝起きが悪いんだな。
ルキの顔に笑顔が浮かぶ。
『ケンヤ』
『わかった』
ようやく起きたケンヤと共に、食卓へ向かう。
今日は、温野菜のサラダとステーキ。
パンプキンスープ。
フルーツも机の中央にたくさん。
飲み物は、ノンアルコールのシャンパン。
すごい、と目を丸くするケンヤに、ルキは寂しげに笑った。
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