第二章:ルキ

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いただきます、と手を合わせる。 久しぶりだ、こんなご馳走ーーー。 『ケンヤ。夕飯の時間だ』 ドアのノックで目が覚めた。 『ん………』 ルキが自室に篭ってしまってからはやることが無くて、与えられた部屋に来てみた。 1人部屋にしてはかなり広い。 2人で使っても、まだ十分な広さがある。 『でけー……』 ダブルベッドに、机に椅子。 ソファとテレビまである。 それから、漫画や小説がずらりと並んだ本棚。 クローゼットはウォークイン。 その中には新品の洋服が五着。 シングルスーツに、ダブルスーツ。 ジャケット。 そして、Tシャツとジーパン。 サイズはL。 ケンヤのサイズと同様だ。 偶々かもしれないが、新品で揃えてあるあたりちょっと怖い。 『あのー……』 お飲み物をどうぞ、とやってきたメイドに話しかける。 『はい、いかがなさいましたか?紅茶は苦手でしたでしょうか?』 『あ、いや。紅茶は好きですけど……あの…クローゼットに入ってる服は……?』 『お召し物でございますね。ルキ様がご用意しておくように言われまして』 『あ……そうなんですか』 『はい。ケンヤ様のサイズはLだろうと。しかし、実際にお召しにならないと分かりかねますわね。不都合ございましたら、お取り替えしますので、お伝えくださいませ』 口調は淡々とした若いメイドは、にこりと笑う。 『勿論、その他のことでも何なりとお申し付けくださいませ』 『あ、はい』 『では、失礼致します。お夕食の準備が整いましたら、お呼びいたします』 ペコリと一礼し、メイドは部屋を出ていった。 『これを………ルキが?』 何者なんだ、アイツ……? 金持ちで、だけど驕ってなくて、優しくて。 ひとりで、メイドと暮らしてる…… 『アイツも、色々あるんだろうな』 だけど、それを全く出さない。 『…………本でも読むか』 彼は幼い頃、本がだいすきだった。 身体を動かすのが苦手なのもあるが、別の自分になれるようで、没頭して読んだ。 だけど、家族が離散してからずっと、生きるのに必死で読むことができずにいた。 それが、今は……… 『なんか、すげぇ……』 本を読むこと。 食事すること。 人と話すこと。 当たり前に行っていたことが、できる。 なんだか、嬉しい。 手に取った本は、少年が家族と一緒に買い物に行って、出会った男に力を授けられ人助けをする物語だった。 両親と買い物か。 いいな、と思う。 きょうだいがいれば、親がいなくなった悲しみをわけ合えたのかもしれない。 だけど、今更だ。 久しぶりにひとと接して、緊張が緩んだのか。 ちょっとだけ、気弱になるのは。 『はぁ』 溜息が出る。 だけど、不思議と嫌な感じはなかった。 そして、今までの疲れがドッと出たのかもしれない。 『ケンヤ。夕飯だ。………?』 ノックの音に反応はない。 『入るぞ』 ベッドの上、いたいた。 『早く来い』 『んんー』 寝起きが悪いんだな。 ルキの顔に笑顔が浮かぶ。 『ケンヤ』 『わかった』 ようやく起きたケンヤと共に、食卓へ向かう。 今日は、温野菜のサラダとステーキ。 パンプキンスープ。 フルーツも机の中央にたくさん。 飲み物は、ノンアルコールのシャンパン。 すごい、と目を丸くするケンヤに、ルキは寂しげに笑った。
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