一章:その理由と出会い

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一章:その理由と出会い

水鉄砲が武器なんて、前代未聞なんだけど。 『何だ、気に入らないのか?』 『むしろ気にいるヤツいんのかよ……ったく、アンタが言ったんだろ』 俺にもできるからって。 『あぁ、言ったさ。おまえには一味違うものがある。おまえにしか出来ないことがある』 『じゃあ、何で水鉄砲なんだよ』 ケンヤは、博士を見て膨れ顔。 齢、16。 その顔はあまりに幼すぎる。 体型はお世辞にも良いとは言えない。 以前は柔らかい笑顔を浮かべる彼だった。 だが、今は柔らかさのカケラもない。 そんな彼をたまたま拾った博士。 『ヒーローにならないか。おまえにもできる』 甘言には気をつけるべし、きっと罠があるから。 親から教わったことだ。 だが、その親は…… 『………何すりゃあいいんだ』 言葉の棘とは裏腹に、彼は哀しげな顔で呟く。 そんな顔をするな、と博士はあたたかく笑いかけ。 彼に、件の武器を差し出した。 それから、彼は膨れ面を崩さない。 甘言には気をつけろ、か。 言うこと聞いときゃよかったかな。 心で、ケンヤはそっと舌打ち。 『まぁ、聞きなさい。この水鉄砲で、おまえの心が少しだけ晴れるかもしれないんだ』 若くしてケンヤを産み育てた母と父。 絵に描いたように、円満であたたかくて、素敵な家庭だった。 母が、重い病気にかかるまで。 まだ、二十代半ばというのに。 そのままーーー、 崩れたバランスは戻らず。 父親はさっさと出て行った。 両親が一気にいなくなり、彼は悲しみに打ち震えた。 毎日、生きているのが不思議なくらいに。 そんな彼も、15になった去年の冬。 母の病気の原因が判明したのだ。 精神ショックによるものだと。 自分の前では気丈だった、優しい母。 しかし、パートナーの裏切りには敵わなかった。 母の気丈さは、空元気からきたものだと、当時幼かった彼には知る由もなく。 『ケンヤさん、あなたに会いたいわ』 突然かかった電話が、真相を知る始まりだった。 『誰だあんた』 『それは会ってから伝えるわ』 猫撫で声なのに、話す内容は淡々としている。 嫌な女だ、と直感した。 『俺は、あんたに会うつもりはない』 不躾な女にそう言うと、女は笑った。 『パパに会いたくないの?』 パパ………って、まさか。 いや、だが、そんなはずない。 父親が、こんな女と一緒にいるなんて。 『父さんの部下か何かだろ?パパなんて呼ぶんじゃねーよ』 気持ち悪い。 『、っふふ………部下、ね』 含みのある言い方に、疑念が強まる。 そんなわけないのに。 含みのある言い方に、疑念が強まる。 そんなわけないのに。 『まぁいいわ。あなたがそんな態度なら、大事なことも分からないままね』 それはそれで、助かるけど ……………あぁ。 嫌だ、本当に。 『………俺が何も分からない年齢だと思ってるんだな。あんた』 『え?』 『助かるなんて余計な一言だったな。馬鹿にするのも大概にしてくれ』 ケンヤの言葉に、相手が電話口で息をのむ。 『自爆、ごくろーさん。それから、』 俺に父親はいねーから ーーー慌てたように、電話がきれた。 ま、分かったとこで何もできないんだけどな。 呟きが、虚空に散った。 くるしい かなしい つらい 泣き言を言えない苦しみ。 誰にも話せない苦しみ。 共感してもらえない悲しさ。 裏切られた辛さ。 『母さん』 母の気丈さが、今思うと痛々しい。 だが、それを受け止めてあげられる程、当時の自分は精神も実年齢も大人ではなかった。 日に日に弱っていく母を、父はどのような気持ちで見ていたのか。 あんな、馬鹿に引っかかって。 母を裏切って、母がいなくなれば早々に女のトコに向かったんだろう。 腹立たしい。 母が、何をしたと言うのか。 あんな自爆女より、よほど賢くて穏やかだったのに。 知りたくなかった。 父親がいなくなった真相なんか。 母親が弱った真相なんか。 『知りたくなかったよ』 父親と自爆女を懲らしめたい気持ちはある。 あるけれど、どうしようもない。 『………』 モニターに映るのは、正義のヒーロー。 ワンパンチで、悪を倒す。 あく、か……… 『ヒーローになりたいのかい?』 『え?』 これが、博士との出会いだった。
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