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第二章:ルキ
『それで?』
『ん?』
『いや、ん?じゃなくて。俺に何しろって言うの』
『ヒーローだけど』
サラリと言われたことば。
『はい?』
『ヒーローになりたいんだろう?』
『なりたいわけじゃ………』
否定するが、声をかけてきた変人は笑う。
歳はケンヤと同じくらいか、ケンヤより少し年上くらい。
『大丈夫。自信持てよ。おまえなら、できるさ』
まぁ、今はまだだけど。
『………』
『武器を作ってやる』
『そう。悪人を倒す武器だ。作るのに時間かかるから、その間はゆっくりするといいさ』
『はぁ』
拠点はここ、あと家のことはメイドがいるから大丈夫。
んで、おまえの部屋もあるから。
『………ん?部屋?部屋って言った?』
『言った。どうせ、家には帰りたくないんだろ』
またサラリと彼は言う。
ケンヤは、自分の素性を明かしていない。
何故気持ちが分かるのか。
疑問に思っているのが、顔に出ていたのだろう。
『分かるよ。家に居づらいのは』
この時期特有ってひともいるだろうし、事情があって居づらいひともいる。
おまえは、どっち?
聞かれて、つい笑ってしまう。
笑うところじゃないんだろうけど。
カマかけられたんだな、と思ったら笑えてきたのだ。
『後者。理由いる?』
『いらない。そこまでズケズケ踏み込める程、俺は図々しくない』
おまえが話したくなったら、聞くけど。
それを聞いて、コイツは信頼出来ると思った。
『じゃ、まだ話さない』
『まだ、ってことはいずれ話してくれるんだな』
『さぁ。……話したくなったら、な』
『はは、可愛くねーの。………俺は、ルキ。よろしく』
『………ケンヤ』
『ケンヤ、ね。りょーかい』
無愛想になったか、と思ったが、ルキは気に留めるでもなくまた笑う。
『あのさ』
『うん?何?』
『俺、あんまり人付き合い得意じゃないし。無愛想だし、なんていうか、ヒーロー向きじゃねーと思うんだけど』
『え?何で』
『だから……』
『それがおまえの個性だろ?ヒーローだからって終始ニコニコしてらんない時もあるし。辛かったり、悲しかったりするだろ。おまえはそれが顕著なだけじゃん。別にそれでよくない?』
すんごいむず痒い。
むず痒いけど、なんか不快にはならない。
不思議な男だ、と思う。
『んー。個性的ねー……武器のイメージ浮かんだけど、候補何個か出てきちゃったな』
『早いんだな』
『まーね。昔から空想力はピカイチよ』
『因みに、どんな候補があるんだ?』
『んとねー。ただの飾りに見えて相手を目くらますだけのマント』
『えぇ……』
どん引きだ。マントをそんな風に使うヒーローなんか聞いたことない。
個性的とかいう範疇越してるだろ。
『邪魔じゃね?』
『え?そう?いい案だと』
『良くない』
分かったわかった、とルキが笑う。
良く笑う男だ。
(あ、なんか癒される)
『ケンヤ?どうした』
『え』
泣きそうになってる、とルキが手を伸ばしてくる。
『なんでも、ねーよ』
強がったケンヤに、ルキは困ったように微笑する。
『ごめん、立ち入らないって言ったのに』
でも、泣きそうなケンヤをほっとけなかった。
心がズキズキする。
ルキは悪くないのに。
『ご、ごめん……』
『んーん。大丈夫』
頭を撫でられる。
『ま、辛い時は抱え込むなよー。頼りないように見えるけど、俺話は聞くから』
頼りない、なんて。
そんなことはない、けど。
『ありがと』
『ん。素直なのもいいよな。ケンヤは、いいとこいっぱいあるよ』
ルキに言われて、ケンヤはぎこちなく笑う。
『お、やっと笑った』
『笑っ……てんのかな』
『おー。まぁ、まだちょい引き攣ってるけど』
俺を話す練習台にしていいしさ
『ん。ありがと』
『いーえ』
『それで?』
『ん?』
『色々候補あるって言っただろ?他は何があるんだ?』
『あー………まぁ、お楽しみにってヤツだ』
ふーん、とそれ以上詮索はしなかった。
変なやつだけど、さっき却下したから割とマトモなものを作るはず。
『ケンヤ、1か月待てるか?』
『いや、俺は全然いいけど』
おっけ、とルキは笑う。
『俺もがんばっちゃう』
『………俺も?』
『ん。ケンヤもがんばるでしょ?』
『…………まぁ、仕方ないし』
ケンヤの呟きに、ルキは仕方ないかーと笑う。
『ま、初めはそれでいいよ』
無理矢理頑張るもんじゃないし。
『…………ルキ』
『ん?』
『あー………えっと、ありがと』
『何が?』
『いや』
気張らなくて良い、と言われた気がして。
嬉しかった、なんて。
気恥ずかしくて言えない。
『ふふ、どういたしまして』
ケンヤは、深く聞かない。
それもありがたい、と思う。
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