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『かわいそうにね、かずは』
母が死んでも葬儀に参列させて貰えず、見送りも出来なかった僕は、ずっと離れの隅で膝を抱えて泣いていた。三日三晩どころじゃない、もう二週間ほど経っていたのではないか。
ずっと泣き続け、目が腫れても声が枯れても止むことはなく、運ばれてくる食事にもまともに手を付けられなかった。
そんな中、久しぶりに聞く声の主は嘲るように笑っていた。――兄の一葵である。
『おにいさま••••••』
『かあさまのこと、大好きだったもんねぇ。おれも好きだったよ。お前はきらいだけどな』
『••••••••••••』
『おんなじ人から生まれたとか思いたくもないよ。おれはともかく、こんな役にも立たない女をおれと一緒に産むとかさ。――なんで死んで産まれなかったの?』
"一葉、大好きよ"
"ずっと一緒にいるわ"
"誕生日の贈り物ね、一葉にとても似合いそうな反物を見付けたの"
"それでお着物を仕立てるから、着て見せてね"
母が死んでしまう直前に話した言葉がなだれ込んでくる。僕の為に着物を仕立てに行った母は、僕にそれを渡すことなく死んでしまった。――僕のせいだ。
『おい泣くなよ、女がうつる!あぁ気持ち悪いなぁ!』
兄は僕を打とうとして、その手を振り上げたまま止めた。そして嬉しそうに笑う。何かを思い出したかのように。
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