きっともうすぐ、春がくる。

《零》『僕』が生まれた日

『あぁ思い出した。とうさまがね、＂男になるんだったら子どもとして認める＂って』

『え••••••？』

『女はいらないけど、男になってくれればお前を忌み子って思わなくなるってさ。嬉しいでしょ？こんな寂しい場所じゃなくて、母屋で暮らせるんだよ？』

『••••••••••••』

果たしてそれは嬉しいのだろうか。

行ったことのない母屋に行き、父や兄、沢山の使用人達と暮らすこと。確かに望んでいたはずなのに、そこに大好きだった母はいない。そして女としては過ごせない。

『あ、別にいいんだよ？かあさまが死んで、ほとんど匿ってくれる人がいなくなったから、隔離先が離れから蔵になるだけだし。きっと寒いだろうなぁ••••••。可愛い妹が凍え死んじゃったらどうしようって思うと、胸が痛いよ』

無意識に唇を噛んでいた。口の中に鉄の味が広がっていく。この時の感情は一体何だっただろう••••••。憎しみ？悔しさ？それとも悲しみだろうか？

兄は乾いた声で笑うと、振り上げていた手を僕の頬に思い切りぶつけてきた。熱く鈍い痛みが染み渡る。そして用はなくなったとばかりに、離れから出て行く。

最後に聞こえたのは、母に似ても似つかない理不尽な笑い声だった――はずなのに。

いつしかそれは押し殺すような泣き声に変わっていった。