《拾弐》夏影に溶ける想い

22/42
前へ
/690ページ
次へ
「あ、全て飲んでしまったな••••••。また汲まなければ」 「井戸水でも川の水でも、汲んだら飲む前に煮沸しないといけないそうだ。十分程度の煮沸でコロリの菌も赤痢菌も死ぬから、飲み水として比較的適したものになるらしい」 「は!?と、ということは、私は間もなく、病に冒されるということか••••••?こ、この水は我が家の井戸から汲み上げて、水瓶に入れていたもので」 顔色が一気に蒼白になり、空になった水筒を手にブルブルと震え始めた。このままの勢いだと喉に指を突っ込んで、無理にでも吐き出そうとするだろう。だから僕なりの見解を述べることにした。 「今までも同じものを飲んできたなら、それほど心配はいらないと思う。過去に下したことがあるなら別だけど」 それに四之宮は安堵の息を漏らす。今まで一度もそういった経験がなければ、今は特にその井戸の心配はいらないだろう。ただ今日から五日間は環境が異なる。屋敷を出る前にされた久遠からの受け売りが、こんなにも早く発揮されるとは。 「煮沸の知識は食事の時にも活用出来るな。まさか一葉が医学の知識を持っているとは」 「••••••受け売りだけどな」 「しかし私に教えてくれたのは君だろう。だから私は一葉に感謝している。――君に知識を与えた者など知らない」 最後の言葉は声が低すぎて上手く聞き取れなかったが、いつになく昏い目をした彼に寒くもないのに背筋がゾクリと粟立つ。外では五月蝿い蝉時雨。なのに、この空間だけは異様に冷え切っている。
/690ページ

最初のコメントを投稿しよう!

154人が本棚に入れています
本棚に追加