《拾弐》夏影に溶ける想い

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(••••••四之宮?) フッと四之宮は一つだけ笑い、水筒の蓋を閉める。鈍色は何も映さない。まるで、今の四之宮のように。 「もう少し眠ろうと思う。まだ本調子ではないんだ。私は一人で大丈夫だから、一葉は皆のところへ」 「僕は四之宮の具合がよくなるまで傍にいるように言われている。だから一緒に授業免除だ。何かあっても、僕が応対するから。ゆっくり休んでくれ」 「あ、あの、その、変なことを言ってしまってもいいだろうか」 「何だ?」 四之宮は照れたように口をモゴモゴと動かした後、顔をそっぽに向け、横目で僕のことを見た。 「て、手を握っては、くれないか」 「手を?」 「十希芽が熱を出した時に、よく強請られるんだ。手を握っていて欲しいと。そうすると、何故だか安心すると言われて••••••。私は熱ではないが、少し、心細いんだ」 不安から震える左手に自分の手を重ねた。それに視線だけでなく、身体ごと横を向けて僕の手の平を頬に添わせる。四之宮の身体の内側の熱が伝わり、トクントクンと少しばかり早い鼓動が伝わってきた。 僕の手の温度が冷たいのか、心地よさそうに引き寄せる。 「あぁ、何故だかとても落ち着く。幸せだ。一葉の前で倒れたのも、悪くはなかったかもしれない」 「大袈裟だ。それに、こっちは本気で心配したんだぞ」 「それは本当に悪かったと思っているよ。私が個人的に、そう思ってしまっただけのことだ。だが、大袈裟ではない。本当に幸せなんだ、一葉。この時間を君と過ごせることが、何よりも」 そう言って四之宮は再び目を閉じ、数分もしないうちに寝息を立て始めた。言い残された"幸せ"という単語が無限に頭の中で反芻されている。甘い言葉が吐き出されたから?それとも四之宮が言いそうにない台詞だったから? 僕が友人以上を、望んではいないから――? 言われても、僕の心が揺らぐことはなかった。ジッと大人しく、ただそこにあり続けるだけだ。 (一時の気の迷いであって欲しいなんて、残酷なことを考えてしまう) この関係性が破綻した時、僕達には何が残るのだろうか。
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