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「四之宮••••••何だこれは」
「野菜だ」
四之宮の手にあるのは西日に煌めく包丁。目の前に広がるのは人参らしい色をした、細切れになりすぎた何か。端には大きく切りすぎている大根。随分と独創的な形に切られていた。
(教えたはずなのにな••••••)
他のクラスメイトに呼ばれ、米の炊き方について教えに行ったのは今から十分ほど前のこと。四之宮には一通り手本を見せて目を離したのに、その出来上がりはお世辞にもいいとは言えないものだった。
彼はしっかりと僕の手本を見てやっているというのに、何をどうしたらこんな••••••残骸のようになるのか。
「••••••この人参は食べやすそうな大きさだな」
「気を遣わなくていい。私でも下手だと自覚しているからな」
「細かく切りすぎたのは仕方がないから、そのまま使う。けど、その大根は大きすぎるからもう少し薄く切る。包丁貸して」
僕は四之宮から包丁を受け取り、無骨な大根を手に取って均等な速度で薄めに切っていく。僕もまだ上手いとは言えない為、出来る限り失敗しないように気を付けていた。
僕の手元を覗き込み、四之宮は感嘆の息を漏らした。
「流石だ••••••。慣れているとここまで綺麗に切れるようになるのか。包丁を真上から振り下ろすのではなかった」
「真上から振り下ろす?」
「あぁ。その方が固い部分も切れると思ったんだ。だが、そうしたら野菜は飛び散るし、おかしな形に切れるし、正直諦めかけていた」
「次からはそうする前に僕に言ってくれ。頼むから」
包丁は木刀の仲間でも竹刀の仲間でもない。同じ容量で扱うべき代物ではないが、隣で感激している四之宮には一体どう見えていたのか。教えれば出来ると、そう思っていたが――先程の有り様をどうしても反芻してしまっていた。
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