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 裏茶屋というと、妓楼に勤める若い衆や芸妓、小間物売り、髪結が密会する場所だ。  そんなところで何を話すつもりだろうか?  紺地に白く桐の紋を染め抜きされた半暖簾をくぐれば、なかなかおつりきだった。  裏茶屋は清廉な造りをしていて、思っていたより綺麗だ。  夢夏の待つ部屋に通される途で、既によがり声が聞こえてくる。  身体が熱い。気が悪いまんまだ。すぐにでも熱を出したい。  今から人に会うってのに、私は何を考えてるんだ。 「千歳おにぃ! 来てくれたんだ!」 「来てくれたって、呼んだのはお前でしょうが」  部屋に入るなり、夢夏が目を輝かせて笑っていた。  何が何だかわからないけれど、裏茶屋の部屋の造りはわかった。  布団が敷かれているのは、まあ、そういうことをする場所だからであって……、変に意識するものではないと思う。 「もしかして、何で呼ばれたかわかってねぇの?」 「母様から『ここで夢夏が待ってるから』と言われて来たんです。昼時に夏樹先生に伝えられたと言ってましたよ」 「おれ、父ちゃんに『千歳おにぃのことが好きだから、抱きたい』って言ったんだ」 「は?」 「そんで、そんで、裏茶屋で待ってて、朝までに千歳おにぃが来なかったら諦めようと思ってて。でも、おにぃ来てくれたから……おれ、嬉しい」 「ちょっと待ってください。理解が追いつかない」  母様は私にそんなことを一言も言わなかった。  ただ、夢夏がどうしても話したいことがあるから、と言われただけだ。 「おれ、千歳おにぃのこと好き! おれのモノになって!」 「急にそんなことを言われても……」 「そんなら、一晩だけ! 一晩だけで良いから、一回だけで良いから! おれの相手して!」 「ッ!」  急に首を掴まれて、そのまま後ろに倒された。
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