19人が本棚に入れています
本棚に追加
2
裏茶屋というと、妓楼に勤める若い衆や芸妓、小間物売り、髪結が密会する場所だ。
そんなところで何を話すつもりだろうか?
紺地に白く桐の紋を染め抜きされた半暖簾をくぐれば、なかなかおつりきだった。
裏茶屋は清廉な造りをしていて、思っていたより綺麗だ。
夢夏の待つ部屋に通される途で、既によがり声が聞こえてくる。
身体が熱い。気が悪いまんまだ。すぐにでも熱を出したい。
今から人に会うってのに、私は何を考えてるんだ。
「千歳おにぃ! 来てくれたんだ!」
「来てくれたって、呼んだのはお前でしょうが」
部屋に入るなり、夢夏が目を輝かせて笑っていた。
何が何だかわからないけれど、裏茶屋の部屋の造りはわかった。
布団が敷かれているのは、まあ、そういうことをする場所だからであって……、変に意識するものではないと思う。
「もしかして、何で呼ばれたかわかってねぇの?」
「母様から『ここで夢夏が待ってるから』と言われて来たんです。昼時に夏樹先生に伝えられたと言ってましたよ」
「おれ、父ちゃんに『千歳おにぃのことが好きだから、抱きたい』って言ったんだ」
「は?」
「そんで、そんで、裏茶屋で待ってて、朝までに千歳おにぃが来なかったら諦めようと思ってて。でも、おにぃ来てくれたから……おれ、嬉しい」
「ちょっと待ってください。理解が追いつかない」
母様は私にそんなことを一言も言わなかった。
ただ、夢夏がどうしても話したいことがあるから、と言われただけだ。
「おれ、千歳おにぃのこと好き! おれのモノになって!」
「急にそんなことを言われても……」
「そんなら、一晩だけ! 一晩だけで良いから、一回だけで良いから! おれの相手して!」
「ッ!」
急に首を掴まれて、そのまま後ろに倒された。
最初のコメントを投稿しよう!