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疑い
軽く料理を食べて、僕はお風呂に入った。スマホはわざと、テーブルに置いておく。この後の真澄の行動を確かめたかったからだ。もちろんスマホの中身は見られてもいいように、LINEのやり取りは削除してあるし、ナオと繋がっているSNSのアプリも隠してある。ロックもしてあるから、覗くことはできないだろうけど。
お風呂に入ったふりをして、ドアの影から真澄を見た。真澄は僕が風呂に入ったと思ったらしく、僕のスマホを手にしている。何度かロックを外そうとしたみたいだけど、うまくいかないようだ。
「あれ?」
スマホのポケットから、何かを取り出して見ている。
「……?」
今日の遊園地のチケットの半券だ。僕がわざとそこに入れておいたヤツだ。そこまでの真澄の行動を確認すると、急いでお風呂に入って何食わぬ顔でリビングに戻った。
「ちょっと長湯しちゃったよ。真澄も入ってきたら?」
「……」
「真澄?」
「ねぇ、今日の仕事ってここに行ったの?誰と行ったの?」
半券をテーブルに置いて、強い口調できいてきた。
「あー、そうだよ、そこに行ってきた。誰と?1人だよ」
「嘘!そんなとこに1人で行くなんて信じられない!」
「そんなこと言われても、本当だから仕方ない」
「確かめてもいい?たとえば遊園地の防犯カメラとか見て」
「どうぞ、ご自由に。でも、そんなふうに疑われるなんて、ちょっとうれしいね」
「どういうことよ?」
「今の真澄はさ、僕のことだけを見てくれてるよね?僕の行動を確認したくてたまらないんでしょ?」
「そ、そりゃあ、夫がもしかしたら浮気してるかもしれないと思ったら、気になるわよ」
「だよね?だから、うれしいよ」
訳がわからないという表情の真澄。
「と、とにかく、取材で行くのにどうしてあんなにオシャレをして行ったの?」
「遊園地だよ、みんな楽しみに来てるんだよ。いつものボサボサのヨレヨレじゃあ、みんながひいちゃうよ」
「取材の道具も持たずに?」
「スマホだけあれば十分だよ、今日みたいな取材はね」
もしかしたら浮気をしてるのかも?という疑いを真澄に残しておくような返事をする。どこか中途半端な答えにして、『もしかしたらホントは浮気してるんじゃないの?』という感情を真澄に持たせておく。
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