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和樹は袋から薬を出して、名前を検索し始めた。取り出された薬の束を見て、私はホッとする。やはり薬は一つも飲んでいないようだ。
「これは睡眠導入剤、で、これは………えっ!」
スマホを操作していた和樹の動きが止まった。
「なんなの?和くん」
「あ、いや…そんな、まさかな…」
スマホを見ていた和樹の顔色が悪い。
「なんの薬だったの?ねぇ、和くんってば!」
「うるさい、ちょっと黙っててくれ」
すがる桃子を、和樹は手で払いのける。あの日、絵麻にしたみたいに。これがこの人の性格なんだろうか。人を手で払うって、なんて失礼なことをする人なんだろう。いまさら関係ないけども。
「もういいっ、自分で調べるから」
今度は桃子も検索している。
「え?」
桃子の顔色も変わった。
「ね、ちょっとどういうこと?これ、ねぇ!」
「知らない、何かの間違いだよ、だ、大丈夫だから」
慌てる二人を横目に、私も検索しているフリをする。
「あら、こんな薬だったの?大変なことになってるんじゃない?早く病院に行ったほうがいいわよ、そこの新しい奥さんになる人と」
和樹と桃子の二人には、そんな私のセリフも聞こえていないようだ。その薬を見て、ひどく狼狽しているのがわかる。
___そりゃそうだ、これは胃がんの治療薬なのだから
私の父は胃がんで治療中に、脳梗塞をおこして急死した。その時の薬がまだ残っていたのを持ってきて、元々入っていた胃炎の薬と入れ替えておいたのだ。運良く、同じ睡眠導入剤もあったから、薬が入れ替わっていることにも気づいていない。あの当時の和樹は、桃子のことと私との離婚のことで頭がいっぱいで、薬をちゃんと飲んでいなかったことが、今になって裏目に出たというところか。
偉そうなことを言うわりに気が小さい性格の和樹は、こんな時、どう反応するだろう?
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