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誰も口を開かないから、私から話す。
「まだ、間に合うでしょ?治療すれば。それに私みたいな女より、そちらの女性の看病の方が治りも早いんじゃない?治れば、だけどね」
桃子はうつむいていて、和樹は目をつぶって何かを考えているようだ。そんな二人に構わず、私は続ける。
「そういうわけで、こんな人、こっちから願い下げだわ。よかった、さっさと離婚しといて。あなたが欲しがってたんだから、ノシ付けてあ、げ、る!さっさと結婚して看病してあげてね。お金もないから大変だと思うけど、私には手に入らなかった愛の力とやらで、頑張って」
そう言って、桃子に同情の視線を向けた。思いっきり蔑んだ目で見てやった。これまでの仕返しとばかりに。
「いや!!なんで私が!絶対、いや!」
桃子はそう言うと、リビングから飛び出して行った。
「あ、ちょっと待って、桃子!待ってくれ」
慌てて和樹も後を追う。
二人がいなくなったことを確認してから、持ってきた和樹の元々の薬と父親の薬を入れ替えておく。そして、置いてあった場所に戻す。
___これで、よし!
薬が変わっていることに、いつ気づくだろうか?それよりも、病院に行けば勘違い(?)だったとわかるはずだけど、あの様子じゃ当分病院にも行かないだろう。
___冷静になれば、今何を最初にするべきかわかるだろうに
二人がいなくなったリビングダイニングを、くるりと見渡す。少し前まで自分の家だったここが、今はまるで知らない家になっている。前妻の痕跡を、とことん消したかったんだろう。
飛び出した桃子を追って、和樹も二階へ行ったままだ。私はこっそり二人の様子を探りに行く。足音を忍ばせて、そっと。
寝室のドアが開いていて、会話がこぼれてきた。
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