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証拠
泣きじゃくっているような嗚咽は桃子だろう。
「ちょっと待ってくれ、きっと何かの間違いだから」
何をしているのか、バタバタしている音がする。
「だってっ!和くん、ガンなんでしょ?死んじゃうんでしょ?」
「死なないよ、桃子を置いてなんて」
「どうしてそのことを先に言ってくれなかったの?」
「そんな、まだガンと決まったわけじゃ……」
___そうそう、病院に行って確認すれば、胃炎だってすぐわかるわよ
二人の会話にツッコミたくなる。
「もうっ!なんでよ!私、病人となんか結婚しない。看病なんて無理!保険もお金もないのに、どうするの?和くんなんて嫌い、大っ嫌い!私、もう出て行くから」
そこまで言うと、こっちへ近づいてくる気配がした。私は慌てて下へ降りる。桃子は、大きな荷物を持ってズカズカとリビングに戻ってきた。
「あら、どこかへ行くの?」
「あんな人、いらないから」
「何言ってるの?私から奪ったって、さっき言ってなかった?欲しかったんでしょ?あの人が」
「あんな…お金もなくて病気の男なんて、いいとこないじゃない!」
「知らないわ、そんなこと。私はとっくに捨てておいたから関係ないし。あ、そうだ。あなたは和樹が既婚者だと知ってて不倫をしてたのよね?」
「な、なんのこと?」
「知ってたはずよねぇ?私から奪ったとさっき言ってたもの」
「………」
「離婚したあとでも相手の不貞行為を知って、その相手の名前を知った日から何年だっけかなぁ?慰謝料請求できるのよ。私があなたの名前と不倫してたことを知ったのは今日、だから…」
「そんな、証拠なんてないじゃない!」
「えー?さっきの写真も認めてたし、不倫してたって音声も残してあるけど?ほら」
そう言うと、私は録音したままのスマホをテーブルに乗せて見せてやった。
「あーーっ、もうっ!!」
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