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ドサッ!バンッ!
桃子はよほど悔しかったのか、テーブルにあったリモコンや雑誌をこっちに向かって投げつけてきた。私はスマホを動画撮影に変えて、桃子に向けた。
「もっとやりなさいよ、暴行罪も付け加えるから」
「いやぁーーーーっ!!」
耳が痛いほどの声で叫ぶと、すごい勢いで桃子は出て行った。これだけ騒いでいるのに、和樹は2階から降りて来ない。でもきっと、こっちの様子は伺ってるはず。
___ホントに小心者なんだから
桃子のことも、力づくで引き留めることもできないのだろうか。
___情けない
深いため息が出た。
そのまましばらく待った。2階は静かなままだ。降りてきそうにない和樹に向かって声を掛ける。
「さてと。話すことはもうないから、帰るわよ。さっさと病院に行って結果を聞いて、ちゃんと看病してもらいなさいよ、じゃ」
“元気でね”と言いそうになって、やめておいた。そもそも“元気ではない”と思い込んでいるだろうし。
階段下から2階を見上げたが、なんの声もしない。反応がないのも悔しいのでさらに、付け足しておく。
「それから、約束の養育費はきちんと振り込んでね。あの時は、慰謝料はいらないって言ったけど、たくさん請求できることがわかったから、せっかくだから請求するわ、彼女にも。二人が不倫してたという証拠は、音声で残してあるから。この前のメモには、慰謝料は請求しないとは書いてないからね。準備ができたらあなたにもあの女性にも請求書を送るから、ちゃんと支払ってよ」
靴を履く。
「じゃあ、ね」
玄関を出て、振り返る。ポーチの脇にある小さな植木鉢は、去年の母の日に莉子と絵麻が買ってくれたミニバラだ。私たちが出て行ったあと誰も世話をしてくれなかったようで、元気がない。
「一緒に行こうね」
植木鉢の土を払うと、両手で抱えて歩き出した。そうして私は、もう決して戻ることはない家を後にした。
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