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「ねぇ、奈緒、もう一度、あのSNSに投稿しておいてくれないかな?」
「いいけど、なんて?」
「“友達の旦那さんとは連絡がつきました。ありがとうございました。ただ、この女性は、慰謝料の支払いが嫌で姿を隠してしまったので、見かけたらおしえてください”みたいな感じで」
「あの、目隠しのままでいいんだよね?」
「うん、あまりにも直接的だと、反対に訴えられるかもだし。それでもわかる人にはわかるから。あ、Mさん、とだけ書いておいて」
「桃子のMね、わかった」
奈緒はスマホを取り出して、操作していた。
「これでよし。拡散希望ってやつも、タグつけといた。そういえば、薬は?」
「もとに戻しておいたよ。落ち着いてもう一回調べれば、ただの胃炎の薬だってわかるし、病院へ行けば検査結果も教えてもらえるはずだけどね。あの感じだと、病院にはなかなか行かないだろうなと思うけど」
「飲んでなくてよかったね、薬」
「ちょっとヒヤヒヤしたけどね、あの人の性格から絶対飲まないって自信があった。効能書きみたいな書類も目を通さない人だから」
「さすが、長年嫁をやってると旦那の性格なんて手に取るようにわかるもんなんだね。で、ご主人…もとい元ご主人はどうするのかな?」
「いざとなると、すごく気が小さいからね、なかなか病院へ行かないかも?行ったところでガンの薬の話をしても、中身は戻してあるから病院じゃ取り合ってくれないだろうし」
「そういうのを、キツネにつままれたみたいって言うんだろうね」
「でも、私のことを騙していたんだから、おあいこだよ」
「で、その桃子はどうするのかな?」
「さぁ?あの調子だと、逃げたと思うよ」
「不倫ってさ、結局、それくらいの関係なのかもね」
「ん?」
「他人のものだから、よく見えて横取りしたくなるけど、実際手にしたら大したことない。けど、夫婦はね、そこまで積み上げたものがあるから、もっと繋がりが強いと思うんだよね。それを簡単に切ってしまうんだから、バカだよ、うちの元旦那も愛美の元旦那も」
「そうだね…」
カランとグラスの氷が溶けた。
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