本物のデート

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本物のデート

「晴れてよかったね♪遊園地なんて久しぶりだから、ワクワクしちゃう」 助手席の真澄は、パワーウィンドウを全開にして走り抜ける風に髪をなびかせている。 「混んでるかな?今、季節がいいから」 ハンドルをにぎるのは、僕だ。 「平日だから大丈夫な気がするよ。私は遊園地よりもね、バラ園の方が気になってるの。そろそろ見頃みたいだから楽しみ」 真澄は、大の薔薇好きだ。今はマンション住まいだけど、いつか戸建を買って自分の庭を一面薔薇で埋め尽くしたいという夢があるらしい。 「バラを買うことができたら、買うといいよ。鉢植えならベランダでもいけるんじゃない?」 「うん、そうする」 まるで、おもちゃ屋さんに行く前の子どものような笑顔だ。 ___この笑顔に僕は惹かれてるんだよな…… 今から真澄と行く遊園地は、あの日、ナオと過ごした遊園地だ。あの時はまさかこんなふうに、真澄を取り戻せるとは思っていなかった。 大好きでたまらない自分の妻が、誰か別の男のことを思っていると知った時、頭をガツンと殴られたような気がした。 ◇◇◇◇◇ 妻の真澄(ますみ)と知り合ったのは、お気に入りの喫茶店だった。大通りに面したそのお店はテラス席も充実していて、仕事で疲れた頭をリセットするにはいい場所だった。 「ご注文は?」 オーダーを取りにきたその女性の声にまず惹かれ 「いつもありがとうございます」 にこやかに返してくれるその微笑みにまた、ノックアウトされたのだ。それが喫茶店の店員というサービス業の職務なんだと理性ではわかっていても、その瞬間は僕だけのために向けられていた。それがたまらなく、うれしかった。 その笑顔と声を自分に向けて欲しくて、仕事の空き時間を見つけては、足繁く通ったのだ。
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