21人が本棚に入れています
本棚に追加
運命の回転と落下
さぁごらん、今、まさに運命が落ちてきた。
もしも、さまざまな感情うずまくその瞬間を、極彩色の絵の具で描くことができたなら、きっと後世に語り継がれる名画となり得たかもしれない。
題名は【運命の回転と落下】とでもしようか。
受け入れようとする者、奪おうとする者、抗う者、なかには不届にも蹴り飛ばそうとする者までいる。
——俺は……俺たちは、この日、この瞬間のために生きてきたんだ。
音は消え、静寂に鼓動だけがこだまする。
挫折に籠城し
勝利に殉じ
敗北に救われ
栄光を殺意の核にする
英 雄児、幸村 士、小日向朔夜、中丸次郎
少なくとも四人にとって、ささやかな回転を伴いながら物理法則にのっとって、ゆるやかに落下する——(奇しくもこの地球と同じ形状をした)その球体は、なるほど"運命"と呼ぶのが相応しいだろう。
だが、やはりそれは少し大仰で、曖昧な表現であるかもしれない。
光——。
世界のはじまりがそうであったように、光があった。
太陽だ。
それを囲むような青々とした空に雲はなく、ただ一筋、飛行機雲があるきりだ。
ほら、もう聞こえるだろう。徐々に音が戻ってくる。
歓声の反響と空気を裂くような管楽器のファンファーレが一陣の風にのり、光沢をともなう黄緑の海を駆け抜けていく。鼓動はアンセムに変わる。
飛沫に変わった汗が宙で煌めき、電光掲示板で小刻みに進む針をキッと睨み、男が呼子笛を口にする。のこされた時間はもうわずか。なおもゆるやかに回転と落下をする運命、
いや——
ここからはあえて『サッカーボール』と呼んだほうが話は早いかもしれない。
そのサッカーボールの落下する位置が少しでも違っていれば、未来は大きく違っただろう。
帝林高校 対 葛葉丘高校
0対0
延長戦ラストワンプレイ
黒髪を三つ編みにしたマネージャーが丸メガネの奥、その瞳を閉じて、両手を胸の前で重ね、すがるように神に祈る。
このボールの行方がそのまま勝敗を分けるだろう。
神が無から世界を生んだように、0を1に変え、英雄が勝利をもぎ取るかあるいは、熱狂が殺人者をも生み堕とすか。
有史以来、サッカーというのはそういうスポーツなのだから。
最初のコメントを投稿しよう!