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《第1章》はじまり
私は真っ白な壁に囲まれた部屋で育った。人との会話も無く孤独な日々を過ごしていた。これからもそんな毎日を過ごしていくのだろう、そう思っていた。その日までは。
その日は突然やってきた。部屋の外の様子をいつも通り透視してみた。何も見えない。いつも通り。でも、何かが違う、直感的にそう思った。状況を確かめるため、私は勇気を振り絞って部屋のドアを開けた。
すると、いきなり背中に激痛が走る。その瞬間思った、これは、私をおびきだす為の罠だったのだと。背中の傷をかばいながら、必死に得意の柔術で応戦する。しかし、敵の数の多さに苦戦する。
(このままでは、倒せない。)
そう思った私は、能力を使おうと集中力高め始めた。その時、ふと頭に男性の声が響いてきた。
(今はまだ能力を使う時ではありません。)
集中力が切れて、我に返ると、敵が震えながら、私の背後にいる人物を見てつぶやいた。
「あ・・・あいつは、銃帝!!」
パーカーのフードを目深にかぶっているため顔も性別もわからない。次の瞬間、その人物は祝詞を唱え始めた。詠の頭に響いてきた声と同じだった。柔和な男性の声だった。
「言之葉の氏神に願い奉る!」
すると、男性の足元には、言之葉家の家紋が浮かび上がる。彼の手には銃が握られ、服装はフードから浄衣に変わっていた。
その姿に詠は驚きを隠せない。なぜなら、浄衣姿になれるものは、言之葉家当主の護衛だけ。それに、護衛になるには「禊」が必要になるからである。
「禊」は非常に過酷なもので、3日3晩飲まず食わずで、ひたすら言之葉の氏神が祀ってある祠に祈祷をし、当主を護ると誓うというものだからだ。当然、命の危険も伴う。つまり、自分の命を引き換えにしてでも当主を護り抜くということを証明するものなのだ。それゆえ、自ら名乗り出るものはなく、実際、詠が生まれてすぐ当主になってから現在まで希望者はいなかった。だから、詠は言之葉家の当主でありながら、家を追われ、研究所に生後間もない頃から軟禁され、時には被験体にされたこともあった。
詠が過去を振り返っているうちに、敵は全て倒されていた。状況をのみ込めずにいると、パーカー姿に戻った男性が詠のほうに向かって歩み寄ってきて、こう告げた。
「真の護衛になれるのは、禊を受けて当主と心を通いあわせ契約したものだけ。だよね?言之葉詠さん?」
(この人、どうして私の名前知ってるの?)
言葉にしたいが、どういうわけか声が上手くでない。
男性は続けて、
「大丈夫。君のことは護るよ。」
と言った。その言葉通り詠の前に立ち、再び祝詞を唱え浄衣姿になった。左手には銃が握られている。男性はあっという間に敵を最後の1人というところまで追い詰めた。
しかし、次の瞬間ー
詠と男性の視界が真っ暗になった。
2人の視界が元に戻った時には、敵の姿はなかった。
男性はパーカー姿に戻っていたが、ひとつだけ違うところがあった。それは目深にかぶっていたフードをとっていたところだ。顔もはっきり見える。髪は銀色、瞳の色は紫だった。目鼻立ちも整っている。
「はじめまして。自分の名前は小茂木銀次。これからよろしくお願いします。言之葉詠様。」
と詠に自己紹介した。
それにたいして詠はおもしろくない点があった。それは敬語と自分の名前に❬様❭をつけられたことである。
「契約する前にお願いがあるの。敬語と様はやめて。わたしもあなたに敬語は使わないから。」
「わかった。詠。」
と銀次は了承した。
その瞬間、祝詞を唱えていないのに言之葉家の家紋が浮かび上がる。銀次は先ほどと同様に浄衣姿になる。と同時に詠の姿も変化した。瞳の色は普段の黒から透明に変わり、頭上には黄金の冠が輝いている。その身には十二単を纏っていた。
「我が名は言之葉家当主、詠。今、この時をもって、小茂木銀次を護衛とする。汝、我を守護する覚悟はあるか?」
「もちろん。」
そう銀次が答えると詠は元の姿に戻った。
契約の反動なのか詠の意識は遠のいた。倒れ込む前に銀次が抱き止める。
「大丈夫。君には俺がいる。君のセカイは守ってみせる。」
眠っている詠を安心させるように銀次はつぶやいた。
研究所の外は、はじまりを告げるように朝日が昇っていた。
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