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私は不動産屋を通さずに家主がやっている、下町の路地裏のさらに奥にたたずむアパートに引っ越した。訳も聞かず、書類も交わさず、二間で月三万。二階建て十部屋のアパートは、私を含め三部屋しか使われていなかった。二部屋には外国人が住んでいて不法滞在と思われた。その為か、大和が泣いても苦情がくることはなかった。
大和。私の愛しい息子。私が勝手に拐ってきてしまった息子。
私はニュースを見た朝に、有りもしない実家に帰る必要が出来たと会社へ連絡した。有給を消化して戻る気はなかった。
三十五年間その日だけを生きてきた。その日一日を生きられればいいと思っていた。そんな私が突然、未来の為に日陰の生活を選んだのだ。
大和と名付けたこの子を、あの母親には渡したくなかった。一度腕に抱いた命が壊されるのが我慢できなかった。母性なんてものじゃない。それは私のエゴでしかなかった。
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