君へおくる歌

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 《高3の9月》  花火大会の帰りだった。私たちは道の混雑を理由に親の迎えを呼ばず、夜道を歩いていた。本当に道は混雑していたのだが、それは迎えを呼べないほどではなく、ただ、少しでも長く一緒にいたかったのだ。他愛のない話をしていたかった。  《2週間前》  私は過呼吸を起こすようになった。それも1日に数回という頻度ではない。1時間に数回、だ。病院に行けど原因は不明。強いて言うなればストレスとのことだった。  私には思い当たるストレスなどなかった。恋人こそいなかったものの、友人にはとても恵まれていたと思う。教室で倒れたときもその時そばにいる人が医務室へ運んでくれた。申し訳なかった。  それから学校にもどこにも行けない日が続いた。疲労と罪悪感ばかりが募っていった。  《2か月前》  クラスで一番仲の良かった友人が、学祭が終わると同時に転校した。とは言っても離れ離れになった訳ではなく、通信制の学校への編入だった。彼女もまた、体調には悩まされていたようだ。学校に来れない日々も続いていた。  彼女はとても綺麗な声を持っていた。それは学校中で有名で、学祭でもステージにのり、とても輝いていた。私はとても羨ましかったのだとも思う。私には、楽器を演奏することさえあれど、あんなに素敵な歌を歌うことも、誰かの心に響く音楽を奏でることもできなかった。  《4か月前》  私は吹奏楽部を引退した。学生指揮者に推薦されるくらいだったから、自分はそこそこの演奏ならできると思っていた。しかしそれは本当にそこそこでしか無かったのだ。必死に音楽の勉強と自主練に励んだつもりだったが、間に合わなかった。  彼女の歌のように演奏してみたい  そんな思いを残したまま、私は部活を引退した。  《9月》  その日は彼女がこんな状態の私をみかねて花火大会に誘ってくれた。2週間ぶりの外出はとても気持ちがよかった。  花火が終わり、帰り道、 「そういえば、練習用スタジオの回数券、まだ2時間分余ってんだよねー。受験終わったら行こうかな」 と彼女は言った。私は、 「良いじゃん!そういえば、今日素敵な曲聴いたんだよね。君に似合うなぁと思ったんだけど…題名思い出せないや。待って、調べる…あ、これこれ」 といいスマホの画面を彼女に見せた。それから2人でこの曲いいよねとか、あの曲が素敵だとか、そんな会話を取り止めもなくしながら家路についた。  それから数日後、いつも通りの朝。スマホのアラームを止め、カーテンを開ける。今日も今日とて息は苦しいまま。ふと、LINEに通知が入っていた。しかも、メッセージではなくファイルで。  そこには、彼女の弾き語りが入っていた。あのとき私が話した曲だった。  ギターのコード調べたのかよ。歌の贈り物か。ハモリ、何層だよこれ。粋なことするじゃん。いつのまに練習したんだ。受験終わったらとかなんとか言ってたじゃん。うま過ぎだろYouTubeに出せよ、何、個人に渡してんだよ。やっぱり君に似合うよ、この曲。  涙止まらなかった。 『ありがとう』『素敵』『やっぱり似合うね』 そう立て続けに送り、スマホを閉じた。  楽器を借りよう。私は私なりの返歌を送ろう。そう決めて制服に手を伸ばした。
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