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小惑星探査機『MUSES-C』(ミューゼス・シー)から分離された半円体のカプセルは、蟻が歩くほどの速さで母星へ向けてゆっくり進んでゆく。7年に渡り、星の大海を旅した「彼」に課せられたミッションだ。
小惑星「1998SF36」のかけらを採取し人類に届けるため、60億㎞も飛行した宇宙の旅も、終わりを迎える時が来たのだ。カプセルに入った小惑星のサンプルがもたらすデータは、母星の起源を知る足掛かりになることだろう。
機械である『MUSES-C』は感情を持ち合わせていない。しかし、任務を果たした後の自分の運命は察していた。金色の直方体のボディは傷つき満身創痍だ。ソフトウェアの老化も顕著になり、このまま工学実験のために宇宙を飛ぶことも叶わなくなった。もうこれ以上動けない。それは彼自身が一番理解していたことだった。
『MUSES-C』には、カプセルについているような高温に耐えるヒートシールドはない。
これからの大気圏再突入は、旅の果ての「死」を意味していた。
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