おきつね・エンカウント

2/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「此処、おれの縄張りなんやけど」    少し考えたが。少しだけ居させて。そう言うと、少しやないやろ。とキツネは笑う。「お嬢さん、最近いっつも来とる」   「おれが、知らんとでも思った?」 「……関西弁を喋るキツネが居るなんて、誰も思わないでしょ」 「はは。そらそうか」    キツネは頷き、それから丹念に毛づくろいをし始めて黙る。どうやら、出て行けと言うほど優那を鬱陶しく思っているようではないらしい。どこかホッとして、優那はシャボン玉をふきつつ、昨日の学校でのことを思い出した。    高校へ入学し、通っていた春ごろの最初は、楽しかった。友達だって出来たし、勉強だって面倒でも取り組めた。学校の他で友達と遊んだりして、愉快な日々が続いていた。なんということはない、ごくごく普通の女子高生だ。少し言うと、恋はしていなかった。けれど、それをしなくても十分に楽しい生活が続いていた。充実している、そう思っていた。      しかし、しばらくして優那は病を患った。早期発見のため、それほどの辛い治療はなかったが、それでも3か月は学校を通うことが出来ず、家で過ごしていた。そのときに父に、子供騙しかもしれないが気晴らしに。と、プレゼントされたものがこのシャボン玉。ふくたびふくたび空に昇ってゆく泡たちを見つめるだけで、気分がよくなる気がして。割れてしまわないように、頑張って風に乗るんだよ。もうちょっと、もうちょっと、と心で念じることも楽しかった。それで暇をつぶし、充実した日々に戻れる日を待って家で勉強だって惜しみなくした。いつか学校へ再び通い出して、そのときクラスのみんなに置いて行かれてしまわないように。    そして、優那は、一週間ほど前に久しぶりに学校へ登校した。  しかし、そこに“充実した学校生活”は存在していなかった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!