おきつね・エンカウント

5/5
前へ
/23ページ
次へ
「名前、なんて言うの? 私、優那」 「キツネに名前聞いて、どうするん」 「私が名乗ったら、そっちも名乗ってよ。それとも、ないなら付けてあげようか?」 「有難いけど、遠慮するわ。名前もあるし、それに名乗る気もないしな」   「優那か、ええ名前」。人柄がにじみ出とるやさしい名前。そう言って笑うキツネに優那は、食えないキツネ。なんでキツネが人柄なんて語れるのよ、と思ったが、ありがとう。とお礼を言った。   「シャボン玉、きれいやん」 「うん。そうでしょ」 「でもすぐ消えてもーて、なんか危なっかしいのが自分みたいやな」 「褒めてるの? それ」    ねぇ。明日も来ていい? 私、行く場所ないの。学校行きたくないから。    かまへんけど、バレてオトンのカミナリ落ちてもしらんで。    私、お父さん結構、やさしいから平気。お母さんのほうが怖いんだよ。    へぇ。かかあ天下っちゅうのか。自分もいつか、怖いオカンになるんやな。    そういうやりとりで、気が付けば優那は。小さくも、笑っていた。この1週間、学校でも家でも泣いてばかりだったのに、キツネと話すだけで愉快な気持ちになれるのだ。翌日も。その翌々日も、ずっと優那は森へ訪れた。学校をさぼって、シャボン玉を持って、制服姿で森へいつも通い続けた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加