きもち、攫われそうになる

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きもち、攫われそうになる

 ──キツネはなんでも知っている。頭の回転もよく、よく正論過ぎる揚げ足を取られたりもするが、競馬とか好きやで。金はかけへんけど。と言われ、どこでそんなのやるの? と問いかけると、内緒。とイタズラに細い目を更に細めて言うのだ。  シャボン玉をふいていると、シャボン玉のシャボンちゅうのはポルトガル語で、石鹸て意味なんやで。とか、俳句やと春の季語にもなっとるな。とか、色々なことを知っていた。  優那は、お陰でシャボン玉がもっと好きになったし、キツネがもっとお気に入りになった。知識のある眼鏡のキツネなんて、どこかの物語に出てきそうだ。きっと、ちょっぴり悪役なんだろうな。    2人はいつも一緒に居たが、お昼だけは違った。森の中のヒミツの草原でお弁当を食べているとき、キツネは野ウサギなどをバリバリと食べるので、優那はそのときだけ場所を移動する。食物連鎖とはわかっているが、少し強烈だったからだ。他に好きなもの、ないの? そう問いかけると、キツネは、うなぎが好きだと言った。 「もっと言えば、うな重」  なんでうな重なんて言葉を知っているのだ、と思ったし。それに、なんて贅沢なキツネだ、と思ったが、優那はいつも朝から午後3時過ぎまで相手をしてくれるキツネのために、貯めていたお小遣いで家の傍の商店街でうなぎの蒲焼きを買って、白飯を敷いた重箱へ乗せて。自分のお昼の他に、持って行こうと決めた。  ──朝に家でその用意をしていると、母が不思議そうに聞いてきた。「優那」   「あんた、うなぎ好きだったっけ?」 「嫌いでもなかったでしょ。あ、お弁当は作ってね」    自分のお小遣いでやりくりしたから、いいよね。そう笑うと、母は少し呆れていたが、食べ過ぎないのよ。あと、お残しも駄目よ。と言って苦笑していた。もちろん、と優那は頷く。   「せっかくの大事な生命なんだから、残すわけないよ」    いつも、キツネが言っていたことを思い出して、口にした。   *
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