きもち、攫われそうになる

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 今日は、とてもよく晴れている。風が少し強い、かな。  ──優那の心の中は、もう学校へ通わなくなって数週間経つけれど、これからどうしようか。そういった気持ちが頭の中に常に存在していて、なんだか少し億劫だった。キツネのところで暇をつぶさせてもらうのも、あまりいきすぎるといつかは親にも先生たちにも、バレてしまうだろう。勉強しないことだって、いつかしっぺ返しで帰ってきてしまうかもしれない。もしかしたら、キツネは危ない目に遭ってしまうかもしれない。それだけは絶対に嫌だ。素敵な友人を自分のせいで失うなんて、絶対に嫌なのだ。    未来が不確定で楽しいという人間も居れば、優那のように未来が不確定だからこそ、怖ろしくて足がすくむという人間も居る。嫌な現状だとは、思うけれど。キツネと喋るという、非日常なこの時間も消えてほしくなくて。どこか、頭がよく、少しイジワルなキツネに、心惹かれていた。   (でも、こんな気持ち、変だよね。)    だって、おかしいよ。私、人間だもん。心が疲れてるから、支えてくれる存在に依存したくなることを、はき違えているのだろうとも思った。少し厄介だな、とも感じた。   「ふー。ごちそうさん。おおきにな」 「いいよ」    食べ終えたようすのキツネは、満足げに口の周りを舌でぺろりと舐めていた。笑ってしまう優那は、頷く。「本当に好きだったんだね」   「好き言うたやん」 「ううん。まさか本当にキツネが、うな重好きだなんて。ご飯までちゃんと食べてるし」 「うまかった、ありがとう」 「よかった。私も朝少し食べたけど、すぐスタミナになるよね」    知ってる? 人間の習慣では、うなぎを1年に1度食べなきゃいけない日があるんだよ。そう言うと、キツネはくつくつ笑った。「土用の丑の日やろ」   「知っとるて。夏場に精が付くもん食って、1年乗り切るみたいな感じの。丑の日に『う』の字が附くものを食べると、夏負けしないって話しからやろ」 「なんで? なんでそこまで知ってるの? あなた、本当に物知りだね」
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