10 ― 触れる海月の骨

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強引に誘っておきながら、詩優さんは待ち合わせに遅れてやってきた。 三十分の遅刻。 目的であった邑木さんの誕生日プレゼント選びにかかった時間よりも長い。 フォークの先できゅうりをつつきながら、わたしは訊ねる。 「あの、ぜんぜん悩んでませんでしたよね。邑木さんへの誕生日プレゼント」 「別にあれでいいかなって。え、あのネクタイよくなかったですか? ださい?」 「いえ……」 別にわたしは彼が邑木さんになにをプレゼントしようと構わない。 構わないというより、どうだっていい。 ネクタイだろうが、ネクタイピンだろうが、カフスだろうが、どうだっていい。 だけどお店に入るなり、一番目立つ場所にディスプレイされたネクタイを「これでいっか」とたいして見もしないで選ぶくらいなら、わたしが買い物に同行する必要なんてなかったのではないだろうか。 プレゼント選びを手伝って欲しい、と言っていたのに。 まったく意味がわからない。 「こちらでメニューはお揃いでしょうか」 店員に訊かれ、詩優さんは笑顔で頷く。 愛想がいい。 だけど、目の奥は今日も笑っていない。
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