1 ― 雪を欺いて【6.5 更新】

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「邑木さん、彼女か奥さんがいるんですかっ」  思ったよりも大きな声が出た。それでも邑木さんは落ち着いた様子だった。眉一つ動かない。 「答えてください。いるんですか、彼女か奥さんが」 「え、ああ……」  はっきりとしない口調で返され、わたしの焦りに苛立ちが混ざる。シーツをぎゅっと握りしめ、叫ぶように言った。 「わたし、知ってたら。知ってたら、邑木さんとこんなことっ」 「気にすることないよ。これは、公認だから」 「公認?」 「そう。不倫、公認だから」  不倫、公認だから。まるで、今夜、鍋だから、のノリで告げられた。  邑木さんの顔には罪悪も動揺も、気まずさを誤魔化すようなつくり笑いもない。  わたし、からかわれてる? この(ひと)の感情が少しも見えない。 「ああ、不倫っていっても結婚はまだしてないよ。これからそうなる予定っていうだけで」  さっきまでわたしの親指を執拗に舐めていた唇は、淡々と告げた。  この(ひと)でも、結婚するのか。まるで独身貴族を絵に描いたような風貌。結婚式を挙げる姿も、子どもをあやす姿も想像し難い。  バーでロックグラスを揺らす姿しか見たことがないから、そう思うだけだろうか。邑木さんはいつもひとりでやって来ては静かに飲んで、静かに帰っていく。  それにしても、不倫を公認するなんて。
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