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もっとちゃちゃっと着れる服ならよかった。昨日の自分を恨みながらジーンズに脚をねじ込み、フローリングにぽつんと置かれたバッグに手を伸ばす。
「つき合ってくれないかな」
手が、ぴたりと宙で止まった。
わたしは首だけで邑木さんの方を振り返った。聞き間違いだと思った。それか、わたしが意味を取り違えているのだと。
「聞こえなかった? 俺はきみと、こうしてまた会いたいと思ってるんだけど」
「……は?」
「少しの間でいいんだ。由紀ちゃんには見返りとして贈り物とかお金とか、そういうものを、って考えてるけど……きみは興味なさそうだよね。そういうものには」
贈り物に、お金。この男はわたしを買おうとしている。
本来なら怒るところだった。だけど思考回路がぐちゃぐちゃになっているのか、ズタズタになっているのか、ただただ呆れ果ててしまったのか、わたしは声をあげることなく固まった。
沈黙が流れるなか、軽薄そうな唇が尋ねる。
「きみの望みは、なに」
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