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つまみ上げるとあの男の香りが漂った。
甘く、攻撃的なあの男の香り。
きっとこの香水には、なにかが絶妙な具合に加えられている。
嗅いだらひとたび、気がおかしくなってしまうような、そういうものが。
こんなことをしたら気持ち悪い人間だ。
まるで、変態だ。
理性がわたしに警告する。
だけど本能がハンカチを握る手を惑わす。
理性はぐらり、と傾いた。
ハンカチが鼻先に触れ、あの男の香りを吸い込む。
鼻腔を突き、胸をするりと流れ、わたしの中に浸透していく。
どうしてこんなことをしているのだろう。
こんなの、気持ち悪い人間のすることだ。
罪悪感を覆うようにリビングの灯りを落とした。
熱病に犯されるようにソファーにうずくまり、ハンカチをきゅっと握りしめる。
邑木さん。
唇から、ふわりと名前がこぼれていく。
まるでなにかに導かれるように、もう一度、あの男の香りを吸い込んだ。
そうしてわたしの中は完璧にあの男で染まった。
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