9 ― それはあたらよ

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「な、なにも……。なにも、してない」 「俺のハンカチ握りしめて、なにしてたの」 「違います、これは」 「呼んでたよね、名前」 「よ、呼んでないっ」 首をふるふると左右に揺らした。 解放して。(ゆる)して。 そんな気持ちで縋るように、違う。違うの、と喘ぐように繰り返す。 説得力はまるでなくて、視界は潤みはじめた。 こんなの、気持ち悪いに違いない。 嫌がられる。拒絶される。 恋人ごっこの域をあまりにも超えた行為。 「ちが、う……」 力なく漏らすと、そっと目尻を拭われた。 あたたかい指先に、張りつめていた糸をふつりと切られる。 「かわいいことするな、君は」 本当に、この(ひと)はかわいいしか言わない。
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