9 ― それはあたらよ

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「……嘘」 「嘘?」 「かわいいなんて、嘘」 「嘘じゃないよ」 「かわいいわけ、ないじゃないですか。 こんなの気持ち悪いでしょ。変態でしょ」 変態って、と邑木さんが吹き出した。 こんなときでもこの(ひと)の笑いのツボは浅い。 「だとしたら、俺は変態歓迎だけど」 大きな手が、髪を撫で、頬を撫で、猫の喉を鳴らすように首を撫でた。 くすぐったくて、喉から鈴のような笑い声が転がった。 身を捩って逃れようとしても、わたしを追いかけ回す手は休まらない。 ころころと転がり、部屋中に鳴り響く鈴の音。 邑木さんとわたしと、無機質なパキラ。 ハンカチ越しではないこの(ひと)の香りと体温に包まれる。 くすぐられて笑うなんて、いつぶりだろう。 わたしは笑い声の延長線上で訊いた。 「なんで戻ってきたんですか」 「ああ、忘れ物して」 なんだ、忘れ物か。 そう思ってから、すぐにその思いを打ち消した。 なんだ、なんて。 わたしはなにを期待していたのだろう。 膨らんでいたなにかが、急速にしぼんでいく。
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