9 ― それはあたらよ

17/20
前へ
/187ページ
次へ
「それに、改めて今夜のことを君に謝りたいと思っていたし、詩優は君の」 「君の?」 訊ねると、邑木さんは口を閉ざした。 わたしはもう一度、「君の、の続きはなんですか」と訊いた。 質問はキスで返された。 もしかしたら、邑木さんも気づいたのかもしれない。 詩優さんが、ひーくんに似ていることを。 いや、さすがにそれはないか。 わたしがひーくんをそばでよく見ていたから、詩優さんとひーくんの些細な類似点に敏感なだけで。 もし康くんや波多野さんが詩優さんに会っても、似ているとは思わないだろう。 それくらいのレベルの「似てる」だ。 瓜二つというわけではない。 気づかない人は気づかない。 「それにしてもあいつ、ほとんど一人で牛すじ食べたな。 味噌だって、ごっそりとっていったし」 めずらしく尖った声だった。 まさかおでんの話をされるとは思っていなかったし、あいつなんて呼ぶのも意外だった。 ふふ、と笑ってしまう。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加