9 ― それはあたらよ

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「また今度、おでんしよう。俺もつくるの手伝うから」 「なに言ってるんですか。次におでんをつくるのは邑木さんで、手伝うのはわたしです」 「そうか。そうだな」 邑木さんはくしゃりと笑い、わたしの手をぎゅっと握りしめた。 子どもみたい。 「それにしても、声かけないでもっと見ておけばよかった。君が俺のことを考えてるところ」 邑木さんはかわいくない子どもだった。 かあっと耳まで熱くなり、反射的に手を引き抜く。 だけどその手は素早く捉えられてしまう。 薄い唇が指先を(なぶ)るように咥える。 本当に本当に、かわいくない大きな子ども。 「やだ、離してっ。ばかっ」 「ばかなんて、久しぶりに言われたな」 「ばかっ。邑木さんのばかっ」 「すごいな。君にばかって言われるのは、むしろいい気分になる」 「……変態ですか」 思い切り眉を寄せて言うと、目の前の唇が静かに微笑んだ。 「変態って、今夜の君が俺に言う?」 そこからはもう、ばかとも、変態とも言えなかった。 口からこぼれるのは吐息だけになった。
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