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「また今度、おでんしよう。俺もつくるの手伝うから」
「なに言ってるんですか。次におでんをつくるのは邑木さんで、手伝うのはわたしです」
「そうか。そうだな」
邑木さんはくしゃりと笑い、わたしの手をぎゅっと握りしめた。
子どもみたい。
「それにしても、声かけないでもっと見ておけばよかった。君が俺のことを考えてるところ」
邑木さんはかわいくない子どもだった。
かあっと耳まで熱くなり、反射的に手を引き抜く。
だけどその手は素早く捉えられてしまう。
薄い唇が指先を嬲るように咥える。
本当に本当に、かわいくない大きな子ども。
「やだ、離してっ。ばかっ」
「ばかなんて、久しぶりに言われたな」
「ばかっ。邑木さんのばかっ」
「すごいな。君にばかって言われるのは、むしろいい気分になる」
「……変態ですか」
思い切り眉を寄せて言うと、目の前の唇が静かに微笑んだ。
「変態って、今夜の君が俺に言う?」
そこからはもう、ばかとも、変態とも言えなかった。
口からこぼれるのは吐息だけになった。
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