10 ― 触れる海月の骨

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「じゃ、食べましょうか。なんか写真で見たより小さいですけど」 声のトーンを落としながら言った詩優さんに、わたしは心の中で頷く。 クリーム色のお皿には真四角のガレット。 狐色の生地もとろとろの半熟玉子もおいしそうだけれど、お腹にはまったくたまらなさそうだな、と見た瞬間に思った。 なんか人気みたいだから。ガレットが旨いらしいですよ。 そう言って詩優さんに連れられた、パリ風のカフェ。 いかにも写真映えしそうな料理に、猫足のアンティーク調の椅子。 テラス席までびっしりと埋まっている客のほとんどは若い女性だ。 もし邑木さんがここにいたら浮くだろうけれど、詩優さんはしっくりとこの女性特有の空間に馴染んでいる。 こういうところも、ひーくんに似ている。 もしかしたら、気づいていなかっただけで、ひーくんも目の奥までは笑っていなかったのだろうか。 わたしが自分の都合にいいように、補正をかけたフィルターを通していただけで。 綻びは、いつからはじまっていたのだろう。 どの時点に戻れば、やり直せるだろう。 そう思ったけれど、「いつから」もわからないようなわたしは、時間を戻せたとしてもうまくはやれないだろう。
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