10 ― 触れる海月の骨

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「髪って」 「え?」 「詩優さんの髪って、地毛ですか」 ふいに口をついた。 詩優さんが前髪をいじり、形のいい額がちらりと覗く。 「明るいですよね、俺の髪。なんか色素が薄いみたいで。昔っからこんな色してるんです」 「へえ、そうなんですか」 似てない兄弟だな。髪も、顔も。 強引なところは憎らしいくらい似ているけれど。 「高校の頃とか面倒でしたよ。お前、髪の毛染めてるだろうって、教師や先輩に目をつけられて。 そういえば、佐倉さんって何歳ですか。女の人に年齢を訊くのも、ちょっとあれですけど」 「にじゅう……ごです」 「なんでいま考えてたんですか。自分の年齢、忘れたんですか」 詩優さんが笑うので、わたしも笑っておいた。 言い淀んだのは、言いたくなかったからだ。 自分が想像していた二十五歳に、いまのわたしは少しも届いていない。 二十五年で、これか。 これが二十五年生きたわたしか。 二十五年間、わたしはなにをしていたのだろう。 なにも残っていない。
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