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「髪って」
「え?」
「詩優さんの髪って、地毛ですか」
ふいに口をついた。
詩優さんが前髪をいじり、形のいい額がちらりと覗く。
「明るいですよね、俺の髪。なんか色素が薄いみたいで。昔っからこんな色してるんです」
「へえ、そうなんですか」
似てない兄弟だな。髪も、顔も。
強引なところは憎らしいくらい似ているけれど。
「高校の頃とか面倒でしたよ。お前、髪の毛染めてるだろうって、教師や先輩に目をつけられて。
そういえば、佐倉さんって何歳ですか。女の人に年齢を訊くのも、ちょっとあれですけど」
「にじゅう……ごです」
「なんでいま考えてたんですか。自分の年齢、忘れたんですか」
詩優さんが笑うので、わたしも笑っておいた。
言い淀んだのは、言いたくなかったからだ。
自分が想像していた二十五歳に、いまのわたしは少しも届いていない。
二十五年で、これか。
これが二十五年生きたわたしか。
二十五年間、わたしはなにをしていたのだろう。
なにも残っていない。
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