10 ― 触れる海月の骨

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「自分で。自分で見つけて、自分で読んで、自分で好きになったの。自分で」 男の影響、の一言にカチンときて、「自分で」を繰り返した。 ひーくんはむしろその漫画が嫌いだった。 喧嘩シーンや口汚い言葉は、たとえ漫画でも無理。 そう言っていた。 その言葉で、ひーくんは本当に芯から穏やかな人なのだな、と思ったけれど、それは大きな間違いだった。 ひーくんはわたしに手を上げたりはせずに、だけど確実に傷つくことでわたしを打ちのめした。 喧嘩シーンの方がよほど上品だ。 「いやー、はじめて女の子の同胞に会ったわ。すげえ」 仲間だとか同じ趣味の人とは言わずに、同胞、と表現するところに笑ってしまう。 詩優さんは少しだけ早口になった。 「男だってあんまり知ってる人いないよ。なにその漫画? って言われるもん。 貸したりもしたけど、絵が古いとか無理って言われてさ。名作なのに。 でも、そっか。ゆきりんも好きなんだ。うわあ、なんか感動した。ぐっときた。すげえ」 邑木さんと同じことを言われた。 目の奥がちゃんと笑っている。
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